ドイツのクルド人への武器供与
ドイツには第二次世界大戦の教訓から、武器管理法というのがある。これは50年代に成立した武器法を90年に改正したものだ。武器はすべて、政府の許可がないと輸出できない。
許可を出すのは経済省管轄の輸出管理機関だが、その前に、内閣の下に設けられた安全保障評議会というところで審議して、内閣が許可しなければならない。安全保障評議会には、首相以下、外相、国防相、経済相、開発相など関連担当大臣が参加する。
ドイツでは基本的に、武装闘争の行われているところ、武装闘争に使われる心配のあるところへの武器輸出は、禁止されている。
しかしこの輸出基準はあいまいで、政権によってハードルが高くなったり、低くなったりしている。特に前政権の中道右派メルケル政権ではハードルが低く、その時に許可された武器輸出を現在の大連立政権でどう扱うにするかについて、以前から議論されてきた。
政権政党の社民党は武器輸出を控える方針で、現政権の連立協定においても武器輸出を控える方針が記載されている。
しかし、ドイツが世界有数の武器輸出国である(世界第三位)。
社民党党首のガブリエル経済相はまず、これまで政府が認めてきた武器輸出で、まだ実際に輸出されていないものをそのまま認める方針を打ち出した。すると、野党、党内からたくさん批判が出てきた。その中には、イスラエル、サウジアラビア、ロシアなどへの武器輸出(武器製造工場製造、武器使用教育センター建設などもあり)もあったからだ。
それで、イスラム国(IS)の問題が発生した。
当初、フォンデアライエン国防相は防弾チョッキ、ヘルメットなど武器以外のものを供与するといっていたが、そのうちに武器供与も検討する必要があるといいだす。最終的には、政府内で議論を重ね8月31日にクルド人自治区の民営組織ペシュメルガ(Peshmerga)への武器供与を閣議決定。その直後に、国防省で国防相とシュタインマイアー外相が会見した。
翌9月1日には、国会の同意を得るための決議を行うが、国会決議が必要だとの法的義務はない。それは形式だけで、批判を回避するためのものでしかない。
ただ、野党もこの問題では揺れた。左派党のギージー連邦議会議員団議長は一時武器供与は仕方なしという発言。緑の党内でも賛成反対があり、党首の一人は国会決議で棄権した。
供与されるのは、対戦車砲30機、ミサイル5000発、機関銃40丁、手榴弾1万個など7000万ユーロ。ただし、すべてを一度に供与するのではなく、小出しに段階的に供与し、様子をみながら供与を続ける予定。
武器の使い方の研修のために、クルド人兵士をドイツで教育することになっている。ただ、ドイツ軍兵士が一日現地で説明するということもありうる模様。
ドイツ政府は、イスラム国の問題はドイツ国内の安全保障にかかわり(実際、ドイツ人でイスラム国に関与しているものが何人もいることがわかっている)、今回の武器供与は一度だけの特別なケースだと説明している。
ドイツ国内では、メディア、野党などがタブーを破ったといういい方もしているが、すでに述べたように武器輸出を禁止する基準そのものがあいまいなのも事実。ただ、実際に紛争があるところに、紛争に使うという目的で武器供与すると公然と法律違反をするという意味では、ドイツでは戦後はじめてのことだといえる。
この点は、しっかり把握する必要がある。
ただ、平和主義を唱える左派党、緑の党で割れたように、現実問題として平和主義のイデオロギーだけで済む問題なのかどうか。平和主義自体も問われている。
(2014年9月09日、まさお)
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