姓(セカンドネーム)が先か、名(ファーストネーム)が先か

 自分の名前をローマ字で表記する時、ぼくは姓—名の順に書きます。それでは名前を名—姓の順に書くドイツの慣習に反するので、姓(セカンドネーム)が先になっていることをはっきりさせるために、姓を大文字にして、その後にカンマを入れます。

 それでも、FUKUMOTOを名(ファーストネーム)だと思う人もいます。

 ぼくがドイツの政治雑誌に原稿を書いた時でした。ドイツ語の正書法辞典「ドゥーデン(Duden)」には日本語の名前は名—姓で記載するとあるので、名—姓に表記したい、との修正要望が編集部からありました。

名前を姓—名の順にしてもらった記事

 ぼくは、ドイツではよく中国語やハングル語の名前が姓—名の順で表記されているので、日本語の名前もそうして問題ないはずだと押し切りました。ぼくがいつもそうしているように、姓がFukumotoだとわかるように姓を大文字にして、その後にカンマを入れてはどうかとも提案しました。しかし編集部は、そういう配慮もせずに単に姓と名の順にするだけで原稿を印刷に出してしまいました。

 この問題について自分で調べ、ドイツ人にも聞いてみました。ドイツでは、南部のバイエルン州で名前を姓—名の順に書くことが結構あることがわかりました。ドイツの図書館でも、著者名が姓—名の順であったり、名—姓の順に登録されていたりと、統一されていないこともわかりました。

 ドイツでは、シンポジウムなどの参加者リストは通常、姓—名の順でリストアップされています。日本語の名前も、日本の著名な作家などの名前は、姓—名の順になっていることがあります。

 名前をアルファベット順に並べることを考えると、姓を先にしたほうが実務的にわかりやすく、便利なはずです。だから、そうしている場合もあるのだということです。

 ドイツ語の正書法辞典ドゥーデン(Duden)についても、それは規則ではなく、慣用を標準にしているだけだと聞きました。そうでなければならないということではありません。

 ぼくが自分の名前を姓—名の順にローマ字表記するのは、ヨーロッパ言語を使わない国の中に、名−姓の順ではなく、姓—名の順に名前を表記する言語もあることを知ってもらいたいからです。ヨーロッパ言語だけからの先入観(枠組み)で、どの言語でも名−姓の順に名前が表記されるとは思われたくありません。ことばや文化は、ヨーロッパ文化だけではない。文化は、多様性のあるものだということを知る必要があります。

 日本でも、国語審議会が2000年12月に、名前のローマ字表記の問題を取り上げています。その「国際社会に対応する日本語の在り方(案)」では、「一般的にはそれぞれの人名固有の生きる形で紹介・記述されることが望ましい」として、「日本語の名前をローマ字表記する場合は、姓—名の順が望ましい」と述べられています。

 日本語の人名を名—姓でローマ字表記するのは、明治維新後に西洋の方式に倣ったからだと思います。ことばは、時代によって変わるものです。世界がグローバル化している現在、社会はたいへん多様化しています。日本語の人名表記についても、明治維新後の西洋方式に倣った慣用にしたがう必要はもうありません。

 日本の住所をローマ字表記する場合も、西洋方式に倣って先に番地を持ってくるのはとても変に思います。西洋方式といっても、ドイツでは番地が最初にくることはありません。通りの名前の後に番地がきます。

 住所の場合大事なのは、国外ではどうなっているかではありません。ローマ字で記載された住所が、日本の郵便屋さんにわかりやすいかどうかです。そうでなければ、国外から日本に届いた郵便物は正確に配達してもらうことができません。ローマ字で日本の住所を表記する場合も、日本の慣用の順序で問題ないと思います。

 むしろ、そのほうが適切です。

(2017年10月12日、まさお)

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