ワインと温暖化

 ぼくは数年前、東部ドイツ南西部を流れるザーレ川とその支流のウンシュトルート川の辺りにあるフライブルクという町周辺でサイクリングを楽しんできました。ザクセン・アンハルト州の南端で、テューリンゲン州との州境にあります。ウンシュトルート川の畔には、哲学者フィヒテとニーチェが勉強していた寄宿舎付きの教会系学校も残っています。学校では昔から、ワインも製造していました。

 この地域ではさらに、昔からゼクト(ドイツ産シャンパンとでもいおうか)の「ロートケプヒェン(赤ずきんちゃんの意)」が生産されています。旧東独時代、東側ではゼクトといえば「ロートケプヒェン」しかないくらいに愛飲されていたスパーリングワインです。

 しかし統一後、民営化の過程で倒産の危機に直面します。でも幸いなことに、従業員の一部が会社を買取って、出直すことができました。現在ロートケプヒェンは、西部ドイツの大手ゼクトメーカ「ムム」を買収するまでに成長し、ドイツのゼクトメーカの最大手のひとつに数えられるようになりました。

 その時はじめて知ったのは、この地域が比較的北に位置するにもかかわらず、伝統的にワインの産地であるということです。ワインの原料となるぶどうの栽培できる北端ともいわれます。

 ザーレ川とウンシュトルート川を囲む丘にはぶどう畑が広がり、ワイン醸造業者がいくつもありました。驚かされたのは、そのワインが高貴な香りを感じさせ、格別おいしいのです。ドイツワインの愛好家には申し訳ありませんが、ぼくは通常、フランスワインかイタリアワイン、スペインワインしか飲みません。後はチリ産か南アフリカ産くらい。ドイツワインはちょっと酸味が強すぎて、小生の口には合いません。

 しかし、ザーレ/ウンシュトルートのワインにはそれほど酸味がありません。ぶどうからの果実の香りと樽からの木の香りが口の中で程よく広がり、一般のドイツワインにはない気品が感じられます。

 ザーレ/ウンシュトルートのワインも、昔からこれほどおいしかったというわけではないようです。統一直後はまだ酸味が強く、それほどの高級感はなかったと聞いています。統一後、有機栽培に転ずるなど試行錯誤を重ね、現在の品質にまで洗練されてきたということです。

 この夏、ザクセン州ドレスデン郊外にあるラーデボイルでできたワインをお土産にいただいたので、飲んでみました。このワインも酸味が少なくなっているのにびっくりしました。マイセンのワインも含め、この地域のワインは東ドイツ時代から高級ワインとして知られていました。でも、酸味がとても強いワインであることも有名でした。

 ワインの酸味が和らいだ大きな要因は、これまでヨーロッパでも南部でしか栽培できなかったぶどうの種類が、北部のドイツでも栽培できるようになったからだと聞きました。つまり、温暖化で本来イタリアやフランスでしか栽培できなかったぶどうがドイツでも栽培できるようになったということです。

 その話を福島の飯館村の友人にしたら、友人は、飯館村でも昔はこしひかりが寒くて栽培できなかったが、原発事故数年前くらいから飯館村でもこしひかりが栽培できるようになっていたのだといいました。

 将来、スペインやイタリアなどヨーロッパ南部では、ワイン用のぶどうが暑過ぎて栽培できなくなる可能性もあるといわれます。

 温暖化の影響が、食卓にのぼるワインや米にも感じられるようになったということです。

(2017年11月03日、まさお)

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