さよなら減思力

大晦日はパンケーキを食べる

 日本では、大晦日に年越しそばを食べます。それに対して、ドイツではパンケーキを大晦日に食べる習慣があります。拳大の油で揚げたパンケーキで、中にイチゴジャムやプラムのムースなどが入っています。外側に、粉砂糖や砂糖ごろもなどがかけてあります。

パンケーキ

 最近は、伝統的な詰め物以外にもチョコレートやバニラクリーム、リンゴムースなどいろいろな詰め物の入ったパンケーキが出ているようです。また、特別にパン屋さんにマスタードを詰めたものを注文することもできます。外見がみんな同じなので、どれにマスタードが入っているかわかりません。そのため、マスタードの入ったパンケーキをとってしまうと、とんでもないく辛い思いをします。そうして、家族や招待客に「大晦日のいたずら」をすることもあるのです。

 パンケーキの名称も、ドイツ各地で異なっています。ベルリンでは単に「パンケーキ(Pfannkuchen)」ですが、北ドイツなど多くの地域では、「ベルリナー(Berliner)」と呼ばれています。「ベルリンのパンケーキ」という意味です。ドイツ中部などでは、「クレッペル(Kreppe, Kräppfel)」や「クラッペン(Krapfen)」などとも呼んでいます。

 簡単にいえば揚げパンですが、この種の揚げパンはすでに16世紀頃からあったとされます。ただ当時は形もまちまちで詰め物も入っていなかったようです。現在のように詰め物をしたパンケーキは、はっきりしていませんが、プロイセン時代の1756年に遡るといわれます。

 ベルリンのあるパン屋がプロイセン・フリードリヒ大王の軍隊に兵士として仕えようと志願しました。しかし兵士としては無理なことがわかりましたが、軍隊の戦場パン焼きとして残ることができました。そのパン焼きがそのお礼として大砲の弾丸の大きさで最初のパンケーキを焼いたというのが、現在のパンケーキのはじまりだといい伝えられています。なので、「ベルリンの球(Berliner Ballen)」と呼んでいるところもあります。

 それがドイツ全土に広まるのは、19世紀後半にベルリンがドイツ帝国の首都として確固とした地位を確立してからだといいます。ただ当時はパンケーキには必ずしも詰め物が入っていたわけではなく、慣習として詰め物が入るようになったのははっきりしていませんが、19世紀の終わりになってからだともいわれます。

 それでは、ドイツではなぜ大晦日にこのパンケーキを食べるのでしょうか。

 それもはっきりしていません。ただ正確には、大晦日といっても元旦の0時になってから食べるところもあるようです。また、カーニバル(謝肉祭)にもこのパンケーキを食べる習慣があります。

 カーニバルは、「灰の水曜日」の直前に行なわれるお祭りのこと。灰の水曜日はキリストの復活を記念する復活祭(イースター)の46日前の水曜日で、その日から「四旬節」がはじまります。四旬節は復活祭前の準備期間のことをいいますが、単に「40日の間」という意味にすぎません。この「40」というのは、イエスが40日間断食していたことに由来します。そのため、カーニバルから復活祭までにキリスト教信者の中には断食する習慣があります。

 そのため、大晦日からパンケーキを十分に食べておいて断食のためにカロリーを蓄えておくというのが大晦日にパンケーキを食べる一つの理由ではないかともいわれます。また現在、大晦日から元旦にかけてたくさんアルコールを飲む人が多いだけに、大晦日の午後にパンケーキを食べておいて、元旦までアルコールばかり飲むのにエネルギーを蓄えておくためだという現実的な説を唱える人もいるようです。

 日本の年越しそばは、そばが他の麺類よりも切れやすいことからこの1年間の災厄を切るという意味で年越しそばを食べる慣習になっているようです。これはどちらかというと、意味的にはドイツで大晦日に幸運をもたらすものをプレゼントする慣習に似ているかと思います。

(2018年1月07日、まさお)

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