事実が揺れる
ソーシャルメディアによって偏った「枠組み」ができれば、事実も歪めます。枠組みに当てはめれば、事実ではないことを「事実」として情報を発信することもできます。
それが、「フェイク(ウソの)ニュース」です。政治的に簡単に悪用できます。それは、米国でトランプ大統領が誕生して明らかになりました。トランプ大統領は、世界のフェイクニュース編集長だといっても過言ではありません。
フェイクニュースは、過去にもありました。
東京電力福島第一原発での大惨事後、ぼくが気づいた限りでは、最低二回偽造ビデオが出回っています。一つは、原発の現場で火事が起こってたいへんになっているというビデオ。その数年後に、水素爆発がまた起こったとするビデオがネット上にアップされていました。制作者は同じだと思います。とてもよくできた偽造ビデオで、事故原発のモデルを使って撮影されたものでした。
その『デマ』ビデオを見て、日本にいるのが恐くなってドイツに避難してきた人もいます。日本がたいへんなことになっていますと日本の友人に相談されたのでビデオを見てくださいと、ベルリンにいる日本人の知人からぼくがいわれた時には、その方はもうドイツに避難してしまっていました。
偽装ビデオを拡散させていたのは、反原発系のサイトでした。自分の主張を発信するのに偽造ビデオを使えば、それだけ主張に対する信頼性が失われます。だから、「なぜ」と思ってしまいます。
ぼくの住むベルリンでは、ドイツで難民問題が加熱している最中の2016年1月に、13歳のロシア系ドイツ人少女が行方不明だという届けがありました。少女は翌日帰宅しますが、難民に性的暴力を受けたと家族に伝えます。それについて、ロシア政府系のメディアが執拗に何回となく報道しました。その結果、ドイツの極右派やロシア系ドイツ人が反難民を訴えてデモをはじめます。デモはドイツ全国に広がりました。ロシアのラブロフ外相までがドイツ治安当局の対応を批判し、ドイツとロシアの外交問題にまで発展しました。
ベルリンの治安当局は、この少女が男性の友人宅で一晩泊まっていたのを把握していました。少女の個人的な秘密だったことから、情報を公開するのを躊躇していました。その温情が難民問題に悪用され、挙げ句の果てには外交問題にまでなってしまったのでした。
ドイツでは、難民が盗みや暴力事件を起こしたなど難民に関わるフェイクニュースが日常茶飯事のようになっています。それに対抗するため、ドイツではハッカーのグループが拡散されたフェイクニュースを追跡するサイトを立ち上げています(http://hoaxmap.org)。
事実は、自分の枠組みに合うようにいかようにも利用できます。現在、それが当たり前になっています。一体何が事実なのか、判断するのが難しい時代になってしまいました。
ソーシャルメッディアを使えば、簡単にウソを拡散できます。それが、ウソなのか、本当なのか。ウソが事実と主張されれば、事実になります。事実は、簡単にウソになります。自分の考えの枠組みにさえ合えば、何であろうが事実なのです。
浮気騒動など個人の問題に留まる程度ならまだしも、それが政治的な紛争を引き起こし、戦争にまで発展してしまったら取り返しがつきません。しかし今、それに対抗する適切な対策がありません。
一ついえることは、ぼくたち自身が多様に考え、自分で判断することが必要だということです。一つの考えの枠組みに捕われてはなりません。いろいろな方向から眺めて、事実かどうかを自分で判断する力を養っていくことが求められています。
(2018年1月19日、まさお)
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