原発と冷却塔

 ベルリンを訪問した日本人の方からよくいわれることがあります。「ベルリンには、原発があるのですね」と。はじめてそういわれた時、ぼくはまったく心当たりのないことにびっくりしました。

 東京に原発があることは、想像できないはずです。人口の密集する大都市に、原発を建てることは考えられません。ドイツの首都ベルリンに原発があることを、不思議だと思わないのでしょうか。

 どんな形をしていましたか、と聞いてわかりました。富士山のように双曲線の形をした大きな煙突のようなものだといいます。ベルリンには、一つだけそういう形をしたものがあります。ベルリンに一つしかないゴミ焼却場の冷却塔です。飛行機でベルリンのテーゲル空港に入る時、着陸する前にその冷却塔が一基見えます。

 そこでは、ゴミを焼却して発生した熱で発電しています。その廃熱を冷却水で冷やします。熱くなった冷却水は、冷却塔に送って自然の通気で冷やします。日本人では、原発反対運動をしている活動家も含めて、冷却塔があれば原発だと思われているのでした。冷却塔が原子炉だと思い込んでいる人さえいました。

 しかし冷却塔は、原子力発電所にだけあるわけではありません。熱を使う火力発電所や化学プラントにもあります。

 ヨーロッパの原発は、ほとんどが川から冷却水を取水しています。ただ、川の水量が十分ではありません。使った冷却水をそのまま川に排出すると、川の水温が高くなって周囲の環境に影響を与えます。それを最小に止めるため、熱くなった冷却水をそのまま川に返すのではなく、冷却塔で自然の通気で一旦冷却して川に返します。

ドイツの原発の事例。写真右に見える双曲線状の2つの大きな煙突が冷却塔だ。 原子炉は、その左に見える丸いドームのようなもの

 ヨーロッパでは、大きな川の河口近くや海辺に立地する一部の原発を除くと、ほとんどの原発にこの冷却塔が設置されています。

 それに対し、海の沿岸に立地する日本の原発には冷却塔がありません。海には十分に水があるので、海水の温度がそれほど高くならないからです。

 日本の原発に冷却塔がないことを知っていれば、冷却塔があっても必ずしも原発でないことがわかるはずです。ちょっと考えてみればいいだけです。でも、それをしない。

 日本の人たちはどうして、冷却塔があれば原発だと思い込んでしまうのでしょうか。

 一つは、日本では原発が一般の人からは見えないように立地しているからだと思います。鹿児島県で薩摩川内原発を見た時、原子炉がわざわざ見えないように隠して建てられているとしか思えませんでした。日本の原発を撮影しようとすると、空撮など特別な手段でしか撮影することができません。原発の写真の少ない日本では、原発とはどういう形をしたものなのか知らない人が多いのではないかと思います。

 東京電力福島第一原発の大惨事で、原発とはどういう形をしているのか写真が出回りました。でも、一旦固まってしまった先入観からはなかなか抜け出せません。思考回路をオンにしてちょっと考えれば、すぐに気づくことです。でも、原発は冷却塔だという枠組みができてしまっているので考えません。

 ヨーロッパの原発は、広々とした平地に立地しています。とてもオープンな感じがします。原発の敷地を仕切る柵までも、簡単に近づくことができます。簡単に写真を撮ることもできます。

 だから日本では、ヨーロッパの原発の写真のほうが目につきやすいのではないかと思います。写真には必ず、冷却塔があります。冷却塔のほうが特徴のある形をしているので、冷却塔があれば原発だと思い込んでしまったのだと思います。

 日本では、冷却塔をモチーフにした反原発ポスターも出回っています。ドイツから見ると、ポスターは一体何に反対しているのかよくわかりません。

(2017年11月13日、まさお)

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