民主主義を育てる

 民主主義には忍耐と時間だ必要だからといって、現代社会において民主主義が市民革命や忍耐、時間だけで成り立つわけではありません。民主主義は、育てるものです。特に、若い人たちが政治に対して関心を持つ環境造りが必要です。親の職業と収入、若者自身の学歴に関わらず、すべての若者に対して公平に民主主義が教育されなければなりません。現在、貧しい層ほど政治への関心を失っているのは、将来大きな問題になると思います。

 日本では、2016年の参議院選挙においてはじめて投票年齢が18歳以上に引き下げられました。ドイツでは、成人となるのが18歳です。それと同時に、国政選挙で投票できる権利と、立候補して市民の代表となる資格を得ます。州によっては、州議会選挙と地方選挙において選挙権を16歳以上としているところもあります。

 ベルリンで、日本の高校生がドイツの高校生のところにホームスティをしたことがあります。ドイツの高校で交流授業を行ない、歴史や政治について語り合いました。その時、日本の高校生のほとんどは日本の歴史や政治に関してドイツの高校生と対等に議論することができませんでした。日本の高校生の政治に対する関心のなさ、自分の国の歴史に対する知識のなさが決定的でした。

 ドイツの高校生は一般的に、政治や社会の問題に強い関心を持っています。2003年にはベルリンで、イラク戦争に反対する高校生の大きな反戦デモがありました。反原発デモや放射性廃棄物の最終処分問題について議論するシンポジウムなどを取材すると、先生が引率して高校生のグループがきていることもあります。

 ドイツで取材する時、ぼくはできるだけ若者にもインタビューするよう心がけています。エネルギーや社会の問題について聞くと、高校生とは思えない大人の回答が返ってくるので、ぼくはいつもびっくりしています。

 この日本とドイツの高校生の違いはなぜなのだろうかと、よく考えさせられます。ドイツの若者は、どうして若い時からこんなに政治に関心を持っているのでしょうか。

 ドイツには、「政治教育センター」という公的な機関が設置されています。国の政治教育センターのほか、州のほとんどに州の政治教育センターがあります。センターの目的は、政治教育によって政治に対する理解を深め、民主主義への意識を強くして政治に参加する意欲を育てることです。政治教育センターが1997年にまとめた「ミュンヒェン・マニフェスト」の表題には、「民主主義は、政治教育を必要とする」とあります。民主主義は、政治教育によって育てるものなのです。

 ドイツでは、戦後直後から政治教育の必要性について議論されてきました。政治教育を公的に行なって、政治教育が政治のプロパガンダに利用される危険はないのだろうか。いろいろ思考錯誤を重ね、政治教育センターの基盤ができたのは1960年代に入ってからです。政治教育の中立性を守るため、政治教育センターの活動は議会の代表によって監視されています。

 ドイツの政治教育センターは、具体的にどういう活動を行なっているのでしょうか。

 国際政治と国内政治、ドイツの過去の歴史に関して中立な立場から情報を提供します。ドイツの歴史に関しては、フランスやポーランドなど隣国の研究者と一緒にドイツの歴史を記述します。政治や歴史に関するテーマで、シンポジウムを開催します。政治教育をテーマにして学校の先生のための研修セミナーも行います。政治の授業をしたいという先生のために、副教材を提供します。最近ドイツで問題となっている反イスラム運動では、反イスラム派市民と対話する場を設けました。

 もう一つ重要な活動は、国政選挙と州議会選挙に向けて立ち上げるボートマッチです。ボートマッチでは、インターネット上で政党との相性診断を行ないます。まずはじめて選挙権を得る若者たちと一緒に数日間のワークショップを行なって、各政党に送るアンケート調査のテーマを選出します。テーマ毎に質問を造り、それを選挙に立候補者を立てるすべての政党(極右政党も含めて)に送ります。その回答を分析して、政党との相性をマッチングさせるプログラムを造ります。ネット上では政党にしたのと同じ質問を有権者にして、有権者が自分の考えに一番近い政党はどの政党かを診断します。

 ボートマッチの中立性を保証するため、ドイツでは政治教育センターのボートマッチ以外に政党との相性診断は行いません。選挙前になると、各メディアのホームページに政治教育センターのボートマッチへのリンクが登場します。

 ドイツでは、政党や環境団体の青年部で活動する若者たちが結構います。極右化が問題になっている町の学校では、生徒会が独自に学校内でナチスの過去について勉強するプロジェクトを実施していました。その他、生徒の判断で授業や授業外で実際に政治家を呼んで一緒に議論することもあります。

 学校教育においてこうした活動をするだけのゆとりがあることも、民主主義を育てる一つの基盤になっていると思います。

(2017年12月29日、まさお)

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