植民地主義がグローバル化のはしりだった

 ぼくは、ベルリンのドイツ歴史博物館で開催されている「ドイツ植民地主義展」を見ました。ドイツが他の西ヨーロッパの国に比べて植民地の建設に遅れたのは、日本でも知られていると思います。それは、統一国家なるものがなかなかできなかったからでした。ドイツ帝国ができると、ドイツは19世紀後半からアフリカや太平洋に積極的に進出して、植民地を建設します。その後第一次世界大戦に負け、ドイツの植民地はイギリスやフランス、日本に分割されました。

 当時ドイツが租借地としていた膠州湾(現在の青島の一部)が、第一次世界大戦で日本がドイツに宣戦布告するきっかけになります。戦後、パリ講和条約で膠州湾は日本に譲渡されます。しかし中国側が強く反発し、1922年中国に返還されました。

 ドイツ租借地時代、ドイツのビール生産技術が膠州湾に移転されています。ドイツの「ビール純粋規則」にしたがって醸造される青島ビールが生まれます。青島ビールは、今もドイツビールの味がします。

 植民地時代の1904年から1908年にかけ、ドイツはドイツ領南西アフリカ(現在のナミビア)において先住民を集団虐殺しました(ヘレロ・ナマクア虐殺)。虐殺されたのは、10万人とも推測されています。

 ドイツはそれから100年以上も経った2016年7月、ようやくそれを公式に「ジェノサイド(人種や民族を集団的に抹消する行為)」と認めます。ナミビアに謝罪しました。それが、「ドイツ植民地主義展」を開催する一つのきっかけとなりました。しかしそれは、ドイツ国内では大きく取り上げられませんでした。

ドイツ領サモアでの展示会ポスター(1900/1901年)
ドイツ歴史博物館でのドイツ植民地主義展から

 展示室の一角で、一つのポスターがぼくの目に留まりました。ポスターの真ん中には、先住民と思われる有色の女性が描かれています。女性のからだには、大きなヘビが巻き付いています。女性の上には「ZOOLOGISCHER GARTEN(動物園)」とあり、女性の両側に「Unsere neuen Landsleute(われわれの新しい同国人)」と書かれています。これでは、先住民の女性を「同国人」といいながらも、「動物」だといっているのと変わりません。

 このポスターは、1900/1901年にドイツ領サモアであった展示会のものでした。

 ドイツでは現在、こういうポスターを展示するのは考えられません。人種差別でたいへんな騒ぎになります。100年経って、社会が変わったのです。かといって、今のドイツ社会において当時と同じように思っている人はいないというと、それはウソになると思います。この現実は、見逃してはなりません。

「植民地によって仕事とパンを」と書かれたポスター
ドイツ歴史博物館でのドイツ植民地主義展から

 当時も今も変わらないな、と思うポスターもありました。ポスターのモチーフは、工場です。ポスターには、「Arbeit und Brot durch Kolonien(植民地によって仕事とパンを)」と書かれています。この「植民地」の代わりに、「輸出」や「自由貿易」ということばを入れれば、現在もそのまま使えると思います。

 植民地主義は、グローバル化のはじまりです。植民地では、本国が政治的、経済的に実権を握って、資源や労働力、市場を好きなように使いました。植民地に本国から政治政策や経済政策を移転することが、植民地の住民の利益になると考えます。それは、優位な側(エリート)の勝手な論理にすぎません。ポスターにあるように、本国の利益しか考えられていません。

 グローバル化する現代社会においても、グローバル化を進めるのはエリートです。エリートには、グローバル化で社会全体、市民全体の利益になるとの思い上がりがあります。現在のグローバル化では、国家主権は移転しない、現地の人種や民族、宗教も尊重し、現地社会の利益を考えるのが基本になっています。しかしそれは表向きで、経済権力がすべてにおいて実権を握って社会を管理します。

 その利益は、一体誰のものになるのでしょうか。現在のグローバル化では、当時の植民地主義時代のような差別的な言動は許されません。ただぼくには、それが表面的なことでしかないと映ります。労働力の安い地域に進出して、先進国のエリートたちが本国の経済と企業のために利益を上げます。その根源には、差別があります。本国で得られた利益は一般庶民にまでは還元されず、貧困と格差が拡大します。この構図は、植民地時代も現在のグローバル化時代も変わっていません。

 植民地主義でグローバル化が進むと、1929年にウォール街で株が大暴落して、世界恐慌が起こります。その後、社会は内向きになって右傾化し、保護主義が加速します。各国は輸出を拡大するために通貨を引き下げ、自国の利益を求めて争い、軍備を拡大していきます。

 こうして、世界は第二次世界大戦へと進みました。

(2018年3月02日、まさお)

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