さよなら減思力

社会が右傾化する

 今世界中で、金融緩和政策が横行しています。金融緩和が慢性化し、お金がばらまかれ続けています。お金はお金のある人の手元に流れるだけで、株に投資されるにすぎません。マネーゲームが加速されています。

 ものをつくる実体経済には、金融緩和政策の効果は現れません。実体経済で働く一般庶民もその恩恵を受けることができません。株価が上がっても、一般庶民は豊かになるどころか、貧しくなったという実感を抱くだけです。貧富の差が拡大します。

 金融緩和政策の結果バルブが崩壊すると、その被害を受けるのは一般庶民です。マネーゲームで墓穴を掘った金融機関は、税金で救済されます。納税者である一般庶民がその穴を埋めさせられます。

 金融緩和政策でお札がたくさん刷られても、国内の実体経済は成長するどころか、萎みます。一般庶民には、それがグローバル化のせいだと思えてなりません。産業が労働力の安い国外に移転していると思い込みます、豊かになるどころか、苦しくなるだけの生活。将来に対して大きな不安を抱くようになります。一般庶民、社会全体が内向きになり、保守的になっていきます。

 世界中で社会が右傾化し、既存システムを統制してきたエリート(エスタブリッシュメント)を批判する国家主義的なポピュリストが台頭します。一般庶民はポピュリストの発言に魅力を感じ、単純な論理で説明するポピュリストのいうことをすべて正しいと信じ込みます。実際に正しいか、正しくないかはどうでもよくなります。真実が実際のデータではなく、感情によって決まるからです。

 イギリスの世論調査研究所がイスラム教徒に対する感情について世界四40カ国の住民に質問したところ、ドイツでは住民の5人に1人、つまりドイツの人口の20%がイスラム教徒だと思われていました。しかしイスラム教徒がドイツの人口に占める割合は、実際には5%に過ぎません。

 どうしてこの差が生まれるのでしょうか。一般庶民が感情的に捉えるからだといってしまえば、それまでです。ぼくは、そこに社会的、文化的な背景があると思います。

 グローバル化で、社会はリベラル化してきました。その過程においては、保守的で、グローバル化社会の変化に取り残された層が必ず出てきます。リベラル化された社会では、取り残された層は時代遅れや過去の世代などと軽視されます。経済的には本来中流だと思っていた層が、社会的、文化的には下流だとされていきます。

 それによって、経済的な格差が拡大するばかりでなく、社会的、文化的な格差も広がります。現在のヨーロッパのように、難民問題で社会が混乱してくると、市民一人一人の社会的、文化的な格差がそれだけ一層顕著になります。ぼくは、この文化的な格差がポピュリズムの台頭を加速させていると思います。

 英国ではEU離脱が決まり、米国でトランプ大統領が誕生しました。その他にも、ハンガリーやポーランド、チェコ、トルコ、イスラエルなどで国家主義的な右翼政権が誕生し、権威主義的な独裁政治家が実権を握り出しています。フランスやオランダ、オーストリアなどでも極右勢力が台頭し、政権を奪い取るくらいの勢いです。

 現在、右傾化が注目されているのはヨーロッパや米国です。でもぼくは、1980年後半の金融緩和の影響でバブルのはじけた日本が世界に先駆けて右傾化したのではないかと感じています。日本では、2000年前後から右傾化が進んでいます。東京都で石原慎太郎氏が知事になったのは1999年でした。その前には、日本会議や新しい歴史教科書をつくる会も誕生しています。

 その後一時、民主党政権が誕生しました。でも日本の右傾化を見るには、現在から30年、40年遡ってみる必要があると思います。戦前のように、天皇制に戻って日本の歴史を美化して民族の栄光を回復し、憲法を改正する。それが日本の右派の本音です。社会には、こうした極右や右派が常に存在します。日本の右傾化は安倍首相の登場で加熱したというよりは、時代の流れによって右派が勢力を拡大しやすくなってきたのだと思います。

 過去を振り返ると、社会が不安な状況に陥った時に市民を情報操作しやすくなり、社会が右傾化していきます。市民に不安をもたらすのは、グルーバル化とその後に続く金融不安です。現在、グローバル化から金融危機が起こり、金融緩和、保護主義、右傾化へと進展してきました。

 現在の世界情勢を見る限り、ぼくは現在が植民地化から世界恐慌、保護主義、右傾化へと進んだ1930年代とたいへんよく似ていると思います。歴史が繰り返されていると思えてなりません。

 世界はこれからさらに、1940年代と同じように戦争に走ってしまうのでしょうか。

 そうは思いたくありません。世界はお互いに依存する構造を造りながら、過去の過ちを繰り返さないようなセーフティネットを築き上げてきたと信じたいと思います。

(2018年3月30日、まさお)

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