さよなら減思力

地方からの革命

 ぼくは、ドイツの68年学生運動について2回書いてきました。学生運動は当時、ドイツだけで起こったわけではありません。フランスでも起こっています。パリではドイツ以上に、学生たちが壮絶な暴動を起こしました。

 今フランスでは、燃料税の引き上げを機に「黄色いベスト」を着た市民が反政府デモを行っています。デモはパリで暴動化するほか、各地に広がりました。

 ちょうど今、温暖化対策について国際的にパリ協定の技術的な合意を求め、ポーランドで地球サミット(COP24)が行われています。それだけに燃料税に反対するフランス市民に対して、どうしてと疑問を持つ人もいるかもしれません。

 でも、フランスの反政府デモを燃料税に反対する市民というだけで見てはなりません。

 フランスは市民革命をはじめ、市民が立ち上がって革命を起こしてきた国です。だから、フランスらしいなあと思っている人もいると思います。ヨーロッパではポピュリズムが台頭しているだけに、今回の反政府デモもポピュリズムと結びつける人も多いと思います。

 でも、ぼくは根がもっと深いと思います。

 フランスは、マクロン大統領の登場で抜本的な構造改革を行おうとしています。それには、市民の痛みが伴います。確かに、燃料税を引き上げて温暖化対策をするのは間違ってはいません。でも、その燃料税引き上げで痛い思いをするのは誰でしょうか。

 都会では都市交通が整い、市街の渋滞も激しいので、車はむしろ必要ありません。でも地方では車がないと、生活自体が十分に機能しません。それに対して、飛行機の利用客は増えました。でも、飛行機は必ず必要なものですか。そうではないと思います。でも飛行機の燃料は通常、課税されません。飛行機の利用頻度が高いのは、エリートや都市生活者です。

 また、パリの豪華なブティックで買い物できるのは誰でしょうか。パリの三つ星レストランでディナーを楽しめるのは誰でしょうか。地方の一般市民には、できないと思います。

 地方のネット環境はどうですか。携帯電話通信は最新の一番早い世代の技術が使えるでしょうか。過疎地では、インターネットできますか。地方では、都市と同じ通信インフラは整っていません。

 都市と地方の間には、大きな違いがあります。社会がグローバル化、デジタル化して、都市と地方の格差がより拡大しています。でも政治は、地方には目を向けません。地方の一般市民の生活はよくなるどころか、悪くなるばかりです。

 今回の反政府デモは、地方市民が起こしていることに注目すべきだと思います。地方の一般市民には通常、政治に圧力をかける力も、政治を変える力もありません。でも燃料税の引き上げを機に、地方を捨てる政治に対して市民の怒りが爆発したのです。その地方の怒りが反政府デモという形で現れているのだと思います。

 そこには、右翼も左翼もありません。

 環境政策はもちろんのこと、政治は市民のために行うものです。政治は、影響力の大きい経済界や労働界、都市市民のためだけに行うものではありません。「黄色いベスト」運動は、忘れられた地方市民の叫びなのです。

 その意味で、今回の反政府デモは68年の学生運動とも違います。当時は、むしろインテリによる運動でした。今回は、地方からの運動です。地方からの革命といってもいいと思います。それほどインパクトのあるものとして、捉えるべきだと思います。

(2018年12月07日、まさお)

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