ドイツが介護先進国というウソ
日本ではよく、ドイツは介護の先進国だと思われています。
それは一つに、日本の介護保険がドイツの介護保険がお手本になっているからだと思います。日本の法規はいろいろな分野で、ドイツで導入された制度から学んで制定されてきました。介護制度も、その一つです。
だからといって、ドイツの介護制度が進んでいると思ったら大間違い。
ドイツの介護は、制度上も遅れています。日本の介護制度には、ケアマネージャーの制度などドイツでも取り入れるべきだと思われるものがいろいろあります。
日本ではたとえば、ドイツにおいては介護負担は家族にまで及ばないと思われています。
とんでもありません。ドイツではちょっとでも血がつながっていて親戚関係にある限り、その他に家族がなければ、何親等であろうと、とことん介護負担を負わされます。
ぼくのドイツ人の友人の一人は、介護施設にいるおばさんのために他の兄弟と一緒にその負担を負っています。
ドイツの介護の質は、ヨーロッパでも最低だといわれます。これは、ドイツで介護に携わっている団体の方から聞きました。
ぼく自身がドイツでいろいろ体験したことからいうと、こどもや若い障害者の介護は確かに、とても優れています。でも高齢者の介護は、これが人間を介護する施設かと思うくらいにひどい状況です。
ドイツの憲法に相当する基本法の第一条第一項には、「人の尊厳は傷つけることはできない」と書かれています。でもドイツの高齢者の介護では、人の尊厳が完全に無視されています。ぼくが独日介護シンポジウムでそう発言したら、たくさんのドイツ人参加者たちがウンウンとうなずいていました。
ドイツには、公的な介護施設がありません。教会系の施設がたくさんありますが、すべてが民間施設です。
ぼくの知り合いが入っている施設では、用足しのために一日に介護士を呼ぶ回数が制限されています。それを超えると、追加請求がきます。それを避けるため、知人は毎日水を飲む量を控えています。
こういうことが、日常茶飯事です。これって、まともな介護といえますか。
一番の問題は、介護士が不足していることです。
ですから、介護士は一日に一人でこなさなければならないルーチンの仕事がたくさんあって、手一杯なのです。それ以外の仕事はできません。
家族や友人が訪ねた時に、施設に入っている本人のためにいろいろしてあげようとすると、ことごとく拒否されます。それによって、介護士に余計な仕事が増えるからです。
ぼくにいわせれば、家族や友人のサポートを受け入れたほうが後で介護士の助けになると思います。でも目先の仕事に追われ、そう思えないのです。
結局、要介護者はほとんどベットに寝かされた状態になります。
介護士はいつもぶっきらぼうで、介護士から人を人と思っているとは到底思えない扱いを受けます。手一杯で、心の余裕がないのだと思います。
日本の施設で見られる人に対する思いやりややさしさは、ぼくが見たドイツの施設では、まったく見られません。
人材不足の原因は、いろいろ考えられます。
一つは、給料が安いこと。たいへんな職業にもかかわらず、それ相応の給与が支払われていません。それが、介護という職業が社会的に認められていないという思いを抱かせます。
もう一つ大きな問題は、資格の問題です。
ドイツの場合、介護士となるには3年間の職業教育を受け、国家試験を受けなければなりません。そしてその資格を持っていないと、介護施設では働けません。
介護施設内の仕事には、資格がなくてもできる単純な作業もたくさんあります。でも仕事の内容に応じた役割分担ができていないので、資格を持った介護士が何から何まで自分一人でしなければなりません。
それが、資格を持った介護士の負担を余計に増やします。
それが、ルーチンの仕事だけで手一杯になっている要因です。
みんな高い志を持って介護士になるけど、結局みんな人を人と扱わない人間になってしまうのよねとは、ある介護関係の仕事をしている人のことばでした。
これが、ドイツの介護の現状です。
(2019年7月26日、まさお)
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