憲法裁判所を訴える

 ドイツで前代未聞のことが起こりました。

 違憲かどうかを判断するドイツの憲法裁判所が訴えられたのです。裁判は、憲法裁判所のあるカールスルーへの地方裁判所の管轄。司法裁判の最高機関が、民事でその下級機関によって裁判されるという事態になりました。

 憲法裁判所を訴えたのは、ベルリンに住む女性。女性は、同じ仕事をしている男性のほうが給料がよく、自分より早く昇級したことを知りました。それはおかしいと、雇用主を労働裁判所に提訴しました。しかし労働裁判所は、男性のほうが高学歴だったことを理由に、雇用主の決定を正当だと判断します。

 ドイツで、ちょうど新しい男女平等法ができて間もない時でした。女性はこれでは憲法違反だと思い、憲法裁判所に判断を仰ぎました。

 憲法裁判所は、違憲提訴があったことを管轄の労働省と法務省に通知しました。この段階で、これまでの統計からすると、憲法裁判所は内々に違憲だと判断していたと見られます。

 しかし、憲法裁判所はその後約5年間、女性の提訴をまったく処理していませんでした。

 女性は、憲法裁判所の苦情処理部に訴えます。苦情処理部は、憲法裁判所が迅速に処理しなかったことを認め、女性に慰謝料を支払う判断を下しました。

 これ事態も、異例のことでした。

 そして、今回は民事裁判。女性側が民事で慰謝料を請求したのでした。女性はこの間、雇用主と和解し、退職しています。しかしその間の司法闘争に疲れ、病気の状態が続いています。

 カールスルーへの民事裁判では、女性の裁判長が「この問題でここまで戦うのは、とても賞賛に値すると思う。わたしは、女性としてこういっている」といったと、報道されています。憲法裁判所との和解を提案しました。

 両者は、和解内容について黙秘とすることで、和解に同意します。

 憲法について判断する司法の最高機関までが、自分の犯した非合理について認めた形になります。

 今、政治や官僚機構などをはじめとして、社会では嘘をついて当たり前の時代になっています。その中で、ドイツの憲法裁判所には自分の過ちを認めるという勇気がありました。

 本来、ドイツ憲法裁判所の行為は、当たり前のことです。自分が間違っていたら、それを認める。それは、こどもにも小さい時から教えていることです。それが、大人になってある程度の地位に就くとできなくなる。それが、どこかおかしいのです。

 どうしてできないのか。考えてみなければなりません。

(2020年1月24日、まさお)

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関連サイト:ドイツ憲法裁判所サイト(ドイツ語)

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