西側社会は冷戦に勝ったのか 冷戦終結の誤解

 ぼくは、ベルリンの壁崩壊前から旧東ドイツで働き、ベルリンの壁の崩壊、東西ドイツ統一を経て、旧ソ連が崩壊して冷戦が終結するのを目の当たりに見てきました。

 当時、米国を中心とする西側社会では、冷戦において旧ソ連体制に勝ち、冷戦が終結したのだといわれていました。しかし旧東ドイツで暮らしていたぼくには、冷戦終結は勝ち負けの問題ではないということがはっきり見えていました。

 冷戦では世界が東西に分割され、二極体制が成りなっていたのです。お互いが睨めっこをして緊張関係をつくりながらもバランスを取ることで両者が直接ぶつかる戦争を回避し、小さな代理戦争が起こる以外は平和が成り立っていたといわなければなりません。

 しかし睨めっこ状態から片方がいなくなると、睨めっこ状態はもう続きません。その後に残されたほうがどう対応するのか。冷戦で均衡が保たれていた状態をどう改革するのかのほうが、旧ソ連が崩壊するよりももっと難題だと思っていました。

 旧東ドイツでは当時、西側で発行された新聞が禁止されていました。しかし旧西ベルリンの新聞を東ベルリンで毎日購入する手段を見つけ、ぼくは毎日、東西の新聞に目を通していました。

 それによって、東側の報道は東側の見方でしか報道せず、西側の報道は西側の見方でしか報道されないのをはっきり認識していました。西側の報道は正しかったとするのは、西側からしか見ていないからです。どちらにもプロパガンダがあり、相手方の事実には目を向けていませんでした。

 旧東ドイツ、旧ソ連が崩壊して西側社会だけが残ると、西側社会の見方でしか政治と社会は動いていきません。崩壊した旧東側社会は残された西側社会に理解されないまま、西側社会の論理で埋もれていくのだろうなあと思っていました。

東西ベルリンの壁は、冷戦時代のモニュメントとして一部残されている

 しかしそれでは、冷戦後の世界の変化に対応したことにはなりません。西側社会には、自分たちが勝ったという安堵感から、その課題の重要さが見えていませんでした。

 西側の集団防衛機関である北大西洋条約機構(NATO)を解体することも考えられたようです。しかしNATOは、旧ソ連崩壊で取り残された東欧諸国のことも考えて残されました。NATOとロシアの協力関係と情報交換を目的に、1991年NATO内にNATOロシア委員会が設置されました。しかし委員会は、うまく機能しません。お互いに相手方に対して不信がありました。旧ワルシャワ条約機構に属していた東欧諸国がNATOに加盟し、NATOが東方拡大します。ロシアはそれとともに、西側社会に危機感を持つばかりになります。

 西側社会は旧ソ連崩壊後の混乱で経済的にも再建できないロシアに対し、経済的な手を差し伸べませんでした。経済協力関係を確固としたものにするのではなく、ロシアを単なる資源供給国にして石油や天然ガスをロシアに依存するという愚策にでます。今でこそ、それがとんでもない愚策だったことがはっきりしていますが、当時は冷戦の勝利感から実際の課題を見通すことができなかったのだと思います。

 結局、目先しか見ず、ヨーロッパばかりでなく、世界の安全保障に関して、長期的、戦略的な将来ビジョンを描くことができませんでした。これまで、冷戦時代と変わらないことを継続してきたといわなければなりません。

 その結果、プーチン大統領によってロシアは独裁化し、プーチン大統領がロシアの覇権を復活させる道へと進みます。ウクライナ戦争はその一環であり、ヨーロッパの安全は危うくなるばかりです。

 ただこういうと、旧ソ連崩壊後のロシアの政治的、経済的混乱状態で、ロシアにおいて誰を信用していいのかわからず、手の打ちようがなかったと弁解する声もよく聞きました。

 それは本当にそうかなと、ぼくは思います。技術移転によってロシアを支援するのが怖かったのだと思います。冷静時代と同じように、西側の技術が軍事目的に使われるのを心配したのです。それは、冷戦時代からの頭の切り替えができていなかった証拠です。その結果、技術移転が必要ない資源に魅力を感じ、エネルギー供給をロシアに依存してしまいます。その結果、ロシアに弱点を握られてしまったのです。

 技術移転による経済支援によって西側社会がロシアとの経済関係を強化し、経済的にも政治的にもバランスの取れた協力関係が生まれておれば、冷戦後の世界は今のようにはなっていなかったと思います。

 西側社会は冷戦勝利感から、その絶好の機会を見失ってしまったといわなければなりません。

(2026年3月25日、まさお)

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関連サイト:
科学政治財団ドイツ国際政治安全保障研究所(SWP)、英語