将来社会について、徹底的に議論しよう

 倫理委員会のクラウス・トェプファー共同委員長、「再生可能エネルギーという代替エネルギーが成長してきたのだから、リスクの伴う原子力エネルギーを利用する倫理的な根拠はない」とした。

 ここでは、確かに「倫理」ということばが使われている。しかし委員長自身、倫理だけでエネルギー転換を実現できないことはよく承知していた。 エネルギー転換の実現は、 倫理委員会の答申書の表紙にあるように、社会全体の「共同プロジェクト」なのだ。エネルギー転換は、社会的、経済的、政治的問題である。

 エネルギー転換によって、一部の企業だけがその利益を得るのではなく、社会全体がそれによって便益を得ない限り、エネルギー転換は持続しない。だからこそ、倫理委員会の委員は、いろいろな分野から選出された。

 委員となったのは、自然科学者、人文科学者、地球環境問題の研究者、社会学者、宗教界代表、元政治家、元大手化学企業社長、労働界代表だった。委員には、意図的にエネルギー転換を支持する環境団体の代表と、それに反対する電力業界の代表は選出されなかった。環境団体の代表、電力業界の代表、エネルギー転換によって影響を受ける企業の代表などは、公開公聴会に呼ばれて、それぞれの意見を述べた。公聴会は丸一日行われ、それがテレビで生中継された。

 倫理委員会では、脱原発とエネルギー転換実現の可能性、問題点、便益などについて議論された。これまでのエネルギー供給システムについてその妥当性がはじめて議論されたと思う。その結果、脱原発を含めてエネルギー転換を実現することは、社会的にも、経済的にも将来の社会のために適切だと判断されたのだった。

 エネルギー転換の思想的な基盤になっているのは、「持続可能な開発」という考えだ。これは、1992年にブラジルのリオ・デ・ジャネイロで開催されたいわゆる「環境サミット」において、「環境と開発に関するリオ宣言」によって採択された。

 世界はその後、後世世代とともに地球の環境を平等に享受できるように「持続可能な開発」を目指すことになる。現世代のためだけに、地球の資源を乱用し、それによって地球の環境を破壊してはならない。

 その第1原則に、こう書かれている。

 持続可能な開発では、人間が中心となる。人間には、自然と調和して健康で生産的な生活を送る権利がある(筆者訳)。

 持続可能な開発という観点から現代社会を見ると、現在のエネルギー供給システムばかりでなく、経済システムそのものがいかに企業利益を優先し、人間を阻害してたくさんの問題をもたらしてきたかがわかる。

 持続可能な開発を目指すには、人間が中心にならなければならない。ここで、人間は市民ということだ。ぼくはこの原則を下に、エネルギー転換を基盤にして将来に向け政治、経済、社会、環境について徹底的に市民のために考えなければならないと思っている。

 市民は現在、グローバル化、デジタル化の問題にさらされている。それとともに、資本主義も変わらざるを得ない。現代は、その過渡期にあると思う。
 
 それでは、市民を中心とした将来社会はどうあるべきなのか。その変化に対応するには、たいへん長い時間が求められる。今すぐにでも徹底して考えて議論し、将来社会に対するビジョンを形成していく必要がある。

 以下では、現代社会の問題を把握して、将来どうあるべきなのか、そのビジョンを少しでも描けたらと思う。

(2018年8月20日、まさお)

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