プラットフォームの権力

 ネット上であるドイツ語の古本を探している時、その本がAmazonのサイトにおいて、イギリスの古本屋からオファーされていることがわかった。

 その他に見つけることができなかったので、Amazon経由でその古本屋に注文することにした。すぐに受注したとの確認がきた。すぐに発送するので、数日中には届くだろうという。

 ところが何日経っても届かない。

 宅急便で発送してあれば、宅急便番号で追跡できる。薄い本なので、イギリスの古本屋は普通郵便で送ったようだった。だから追跡できる番号はなく、郵便物は追跡しようがない。

 1週間以上待ったが、届かない。どうしていいか困って受注確認メールを見ると、困った場合の連絡先がクリックできるようになっていた。ぼくはうっかり認識していなかったが、それがAmazonの苦情受付窓口だとは知らなかった。

 そこからイギリスの古本屋に連絡がいったようで、イギリスの古本屋から直接メールがきた。

 ただそのメールを見て驚いたのは、注文した本のことではなく、Amazonへの苦情を取り消してほしいという依頼だった。そうしないと、評価が下がるどころか、Amazonのサイトに商品をオファーできなくなる心配があるのだと説明してあった。どことなくビクビクしているようだった。

 注文した本はどうなるのかと思ったが、そのことは二の次だった。

 結局、在庫がないので、クレジットカードで支払ったお金は返金してもらうことになった。

 このちょっとした出来事は、ぼくにとって驚きだった。ぼくには、Amazonがイギリスの古本屋にとってとても大きな存在で、大きな権力者、それどころか独裁者のように映ったからだ。

 Amazonのユーザーにとって、Amazonは一つのプラットフォームにすぎない。でもプラットフォームに商品をオファーすれば、そこに権力構造ができあがり、プラットフォームが大きな権力を持ってしまう。

 ぼくはそんなことを、想像もしていなかった。

 ぼくたちユーザーが気軽に使っているプラットフォーム。そこから注文すると、ユーザーの使った業者を評価するアンケート依頼も届く。それにも、ユーザーは気軽に答えていると思う。オファー業者を信頼できるかどうかを知るには、その評価はユーザーにとってとても参考になる。

 でもその評価も、評価がいいか悪いかで、(悪質業者でない限り)オファーする業者にとっては死活問題になるのだ。

 そう思うと、プラットフォームにおけるユーザーの気軽さと、オファー業者の苦しみのギャップがあまりに大きいことに気付く。

 ユーザーの評価では、満足したかどうかで評価することが多い。商品が予定通り届いたか、商品に問題はなかったかなど、事務的なアンケートならわかる。でも満足度を問うとなると、それは感情的なものでしかないのではないか。

 「いいね」をもらうと、いい気分になるのは確かだ。でもぼくは、「いいね」をクリックするのも感情的なものだと思っている。そこではよく考えないまま、簡単に「いいね」していないだろうか。

 こうして見ると、デジタル化されたネット社会では、何から何まで感情化されていないだろうか。ぼくは、そうなっていくことに疑問を持っている。双方向性といいながらも、そこには議論も対話もない。

(2019年9月26日、まさお)

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