遺言書だけでは不十分

自分らしく死ぬために

 これまで、自分らしく死ぬためのポイントをいろいろ挙げてきた。その一つの重要なポイントになると思われるのは、自分の死後に起こりうる問題をできる限り生前中に自分で片付けておくことだ。

 それが、自分らしく死ぬことではないか。ぼくはそう思う。そのためには、自分の代わりにいろいろやってもらう代理人が必要だし、代理人といろいろなことで話し合って、自分のことを理解しておいてもらったほうがいいのはすでに書いた(たとえば「代理人が必要」)。

 遺言書を書いておいたほうがいいことも書いた(「遺言書も用意しておく」)。

 ぼくは遺言書に関してドイツでは、制度もしっかりしているし、慎重に取り扱われるので、遺言書があれば、遺言書のまま相続が問題なく執り行われるものとばっかり思っていた。

 最近になって、そうではないことを知った。ぼくの周りで、遺言書があるのに相続を巡っていろいろな争いが起こっている。そのため遺言書に記載された相続人が、弁護士を入れるなどしてさんざん苦労している。

 それは、なぜか。

 遺言書に相続人として書かれていない法定相続人が、遺言書に異議を申し立てるからだ。

 ドイツでは遺言者がある場合、そこに記載された相続人が公証人を通して、故人在住地区管轄の遺産裁判所に遺言書の開封と相続人証明書(Erbschein)の発行を依頼する。その時、法的相続人の情報も裁判所に提出しなければならない。

 その手続きを踏まないと、相続人として公式に認定されず、相続人証明書が発行されない。相続人であることを公式に証明できないと、銀行などに対して相続手続きを執り行うことができない。日本では、相続人が協議して遺産分割について決めた遺産相続協議者を作成することになっている。それによって、遺産分割を相続人が確定される。しかしドイツには、それに代わるものがない。

ゆっくり座って対話して協議したい。ドイツ歴史博物館の展示物から

 裁判所は相続人証明書の発行申請があると、相続人証明書を発行する前、すべての法定相続人(国外在住の法定相続人も含む)に手紙で遺言書に異議がないかを問い合わせる。

 遺言書で相続人として記載されていない法定相続人はその時、遺言書に異議があれば、裁判所にその旨を伝えることができる。そうなると、遺言書に記載されている相続人は、裁判所に中途半端に遺産を確定して、裁判所に通知できなくなる。さらに、遺産分割で法定相続人と争わなければならなくなる。

 これが、ぼくの周りで相続問題でもめている原因だ。たとえば、祖母から相続人に指定された孫が自分の親に訴えられているケースがある。夫の前妻のこどもと争っている相続人の後妻もいる。争いになるケースは様々だ。

 こうしたゴタゴタが死後に起こって、残された相続人が争いごとに巻き込まれては、自分らしく死ぬことになるだろうか。できることなら、自分の死後に家族間で争わなくていいように協議しておきたい。

 そのためには、生前に家族あるいは相続してもらいたい人と、相続について事前に協議して死後に争いごとがおこらないないようにしておくしかない。

 もちろん、そうするかしないかは、個人の問題。自分がどう死にたいかに関わる問題でもある。

2024年7月08日、まさお

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関連サイト:
登記申請手続きのご案内(相続登記(1)|遺産相続部迂闊協議編)法務省民事局

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