相続放棄のことも知っておきたい

自分らしく死ぬために

 これまで、遺言書から相続の話までしてきた。ここで注意しておきたいのは、相続されるのは自分が残していく財産だが、その遺産には債務も含まれることだ。借金があれば、相続人はその借金も相続しなければならない。

 相続人は、遺言書で指定された相続人のこともあれば、遺言書がないので法定相続人の場合もある。いずれの相続人であろうが、相続人は自己による相続が開始されてから6週間以内に、相続を放棄すること(Ausschlagung)が認められる。

 ここで相続の開始をどう定義するかだが、原則として自分が相続人であることが知らされた時点とすればいいのではないかと考える。遺言書がある場合は、遺言書が開封されて裁判所からその旨を通知された時点となる。

 相続を放棄するために相続放棄書を作成する場合は、公証人にそのための公正証書を作成してもらい、遺産裁判所(Nachlassgericht)に提出してもらわなければならない。ただドイツでは公証人が仕事で一杯で混んでいるので、それを引き受けてもらえる公証人を探すのもたいへんだ。それでは、相続放棄期限に間に合うかどうかで、ハラハラしなければならない。

 遺産裁判所に出向いて相続放棄の意思を伝えて、裁判所にその旨の相続放棄書を作成してもらうこともできる。ただそのためのアポイントを取るのもそう簡単なことではない。ただ裁判所とは電話でアポ取りできるので、こちらのほうが簡単だと思う。

 ドイツでは何から何まで、アポイントを取るのにたいへん苦労しなければならない。

 遺産裁判所は、ドイツの通常裁判の下級裁判所である区裁判所(Amtsgericht)内にある。故人が住んでいたところを管轄する区裁判所が、担当の区裁判所となる。

 ここで注意しなければならないのは、相続を放棄すると、相続放棄人はもう生存していないとして取り扱われることだ。これは、どういうことを意味するのだろうか。

 相続が放棄されると、相続放棄人の次の順位の相続人が放棄されたものを相続することになるということだ。相続人にこどもあがあれば、そのこどもが次の相続人になる。債務も消えない。

 相続放棄に期限を設けてあるのは、その期間に相続人が被相続人の遺産を調べ、債務などによって相続人に負担がかかるのかどうかなどを調べる猶予を与えるためだ。しかしドイツの相続放棄期限が6週間だというのは、日本では3か月であるのに比べると、かなり短い。

ミュンヒェン英国庭園の中国の塔の周りにあるビアガーデン。こういうところでいつまでも飲んでいたいがな

 公証人や遺産裁判所とのアポイントを取ることを考えると、いろいろ調べている余裕があるのかと心配になる。これだけの短期間では、相続人はしっかり調べる時間もなく、盲滅法に相続するか、相続を放棄するかを、判断しなければならなくなるのではないかと心配になる。

 期限以内に相続を放棄しないと、相続することを受け入れると見なされるので注意しなければならない。

 また日本と同様ドイツにおいても、被相続人の債務を遺産の枠内だけで返済する相続の限定承認も認められるが、ここではこれについて記述しない。

 またぼくの周りには、相続人となって遺産を相続することになっても、相続を巡ってトラブルとなって、たいへん苦労した人たちもいる。たとえば、被相続人に離婚歴があって、前妻との間に子供があった場合などに、遺言書があっても、遺言書は信用できないと訴えられ、相続でトラブルになりやすい。

 相続でトラブルになると、弁護士に中に入ってもらう必要がでてきてお金がかかるし、時間もかかる。

 歳をとるにつれ、相続問題などは考えたくないし、やっかいになるものだ。ただ残される相続人の身になってみると、自分の希望するように相続してもらうためには、ただ単に遺言書を残しておくだけではなく、自分のからだと頭がまだしっかりしている間に相続問題について家族としっかりと話し合い、相続問題について事前にはっきりさせておくことを考えるのも必要だと思う。

2024年4月04日、まさお

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関連サイト:
相続放棄の手続きは自分でできる? 注意点までわかりやすく解説(相続会議、朝日新聞社運営のポータルサイト)

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