各地にエネルギー相談室を!

 ぼくは、これまでドイツのシュタットヴェルケについて何回か報告してきました。

 シュタットヴェルケは基本的に、自治体の公営会社として電気、熱、ガス、水道などを供給する公益事業を行なっています。都市鉄道、バス、トラム、地下鉄などの公共交通事業も一緒に行なっているシュタットヴェルケもあります。

 ただ、90年代に自治体の財政難で、民営化されてしまったところも結構あります。

 そのシュタットヴェルケが、日本でも注目を集めているといいます。再生可能エネルギーによってエネルギー転換する手段として注目されているようです。

 ここで、注意しないといけないのは、単に電気を供給するだけのシュタットヴェルケでは機能しないということです。ドイツでも、大都市の大きなシュタットヴェルケは、一般家庭と産業向けの電気と熱の供給を行なっています。そのほうが、効率よくエネルギーを利用できるからで、地域で効率よくエネルギーを利用するためのシステム開発もシュタットヴェルケの重要な役割になっています。

 地域によっては、再生可能エネルギー化のためにシュタットヴェルケへの住民参加を促進しているところもあります。

 実は、日本でもドイツのシュタットヴェルケのような自治体エネルギー公社がありました。でも日本では、電力市場が大手電力9社によって地域毎に棲み分けされてしまいました。ドイツの場合は、大手電力が発電と高圧送電を行い、シュタットヴェルケが地元での発電と配電を行なうことで棲み分けされていました。それが、シュタットヴェルケが残った要因だと思います。

 ドイツのシュタットヴェルケで一番重要な点は、独自に発電しているというよりも、配電網、地域熱源供給網、ガス配管網を持って生活の一番近いところでエネルギーを供給する役割を果たしていることだと思います。それ故に、ドイツの住民はどのエネルギーを選択するのか、大手電力の経済権力に強制されることなく、自分の判断で使うエネルギーを決定することができます。その点で、シュタットヴェルケがとても重要な役割を果たしてきたと思います。

 ドイツのシュタットヴェルケが日本で注目されているのは、歓迎すべきことだと思います。でもそれが、日本でも実現できるか、またはすべきかについて議論するのとは、違う問題だと思います。

 ドイツにはドイツの事情が、日本には日本の事情があります。ドイツのシュタットヴェルケには、ドイツ特有の歴史、背景があることを忘れてはなりません。

 また、シュタットヴェルケを新しく設置するのは、自治体に大きな財政負担となります。そのための専門の人材も必要ですが、日本ではまず人材育成からはじめなければなりません。県庁職員や自治体職員の天下りでは、うまくいきません。

 シュタットヴェルケという箱をつくっても、その中身をどうやって埋めるのかも考えないと意味がないということです。

 エネルギー転換において重要なのは、最終消費者である住民がどのエネルギーを使うのか選択しやすくることです。そのためには、配電網を住民のものとするか、公営化するか、配電網に公共性を持たることが必要です。そのためには、特にシュタットヴェルケが必要であるとは思えません。

 日本でまず必要なのはむしろ、住民など最終消費者に最も近いところで、たとえば住宅を新築する場合やソーラーパネルを設置する場合などにおいて、エネルギー問題についてアドバイスできる「エネルギー相談室」のようなものではないかと、ぼくは思います。

 ドイツでも、エネルギーエージェント(Energieagentur)というエネルギー相談機関が国、州、自治体のレベルに設置され、住民の近いところでエネルギーに関して住民や中小企業をアドバイスしています。

 こういう組織をまず、自治体レベルで日本各地に設置していくべきだと思います。設置に当っては、各地にある既存の環境NPO法人などを「エネルギー相談室」の窓口となるように支援していくのがいいのではないかと思います。そして、それをネットワーク化していきます。

 まず小さくはじめて、次第にネットワーク化で大きなものに育てていくということです。

 その後に、シュタットヴェルケのようなものが必要かどうか、考えてもいいのではないと思います。

2018年6月10日、まさお

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