変化に対応できるのか、変化を望まないのか

 気候変動は今、人類に課せられた重大な問題です。気候変動を抑制するため、脱炭素化を進めます。工業国の多くは、2050年までに二酸化炭素などの温室効果ガスの排出を実質ゼロとするカーボンニュートラルを目指します。

 2050年まで、30年近くあります。それまでの時間は、十分なのでしょうか。あるいは、短すぎるのでしょうか。

 2050年までに残された時間は、たいへん短いと思います。

 単にこれまで通りのことをしていても、脱炭素化は実現できません。新しい技術開発も必要です。ただ技術開発が進んでも、これまで通りに生活できるかどうかの保証はありません

 技術ばかりでなく、ぼくたちの生活、社会自体も大きく変化せざるを得ないと思います。でも社会は、その変化をアクセプトできるでしょうか。社会には、変化に柔軟に対応できる人ばかりとは限りません。変化をまったく望まない人たちもたくさんいます。

 でも変化を望まない人たちとともに、社会全体で変化に適応しなければ、米国でトランプ政権が誕生したように、社会は大きく混乱します。

 産業は古い技術に依存しているだけでは、競争力を維持できません。常に、技術革新を続け、新しい技術によって競争力を維持し続けます。

 たとえばIT技術によって生産の自動化が進み、たくさんのことがロボットなどの機械が処理してくれるようになります。その結果、生産ラインで働く労働者が職を失います。

 気候変動による変化に加え、自動化によっても、労働が大きく変化します。現在ぼくたちは、この二重の課題に直面しています。

わが家の斜め向かいにできた充電ステーション。電気自動車の普及で変わる一つだ

 たとえば電気自動車。電気自動車は、脱炭素化に向けて避けて通れない変化です。ただ電気自動車では、従来のガソリン車やディーゼル車に比べ、自動車の部品の半分以上が不要になります。

 不要になる部品は、もう生産しません。それに伴い、二酸化炭素排出が削減されます。でもそれに伴い、自動車産業においてたくさんの人が失業することが予想されます。

 ドイツは、自動車産業国です。たくさんの人が大手自動車メーカで働き、部品メーカもたくさんの人を雇用しています。しかし自動車が電気自動車に変わることで、自動車産業だけで10万人以上の雇用が失われると推定されています。

 労働者をそのまま、失業させてしまっていいのでしょうか。

 これは単に、労働者個人の問題ではありません。政治ばかりでなく、企業自身も、構造改革に伴う失業に責任を持って対応しなければなりません。企業は企業倫理として、これからの失業問題にどう対応すべきなのか。その対策を事前に十分考えなければなりません。

 たとえばドイツの自動車部品総合メーカ、タイヤメーカのコンチネンタル社では、時間をかけて社員を再教育するプログラムをはじめました。それによって自動車部品メーカとして技術上の新しい要求に対応するばかりでなく、社員が解雇されても、できるだけすぐに新しい職を見つけることができるようにします。そのために、雇用期間中に新しい職を習得する社員の長期再教育に取り組んでいます。

 社員の再教育に必要となる経費は、失業保険を管理し、失業者を支援するドイツ政府のドイツ労働施設(Bundeanstalt für Arbeit)によって助成されます。

 再生可能エネルギーへのエネルギー転換によって、新しい雇用が生まれます。しかしそれだけでは、脱炭素化によって失業する人たちの受け皿にはなれません。

 たとえば生産の自動化で、将来たくさんのプログラマーが必要になります。社会の高齢化とともに、介護の分野においてたくさんの労働力が必要になることも予想されます。

 でも自動車生産ラインで働いてきた労働者が、プログラミングや介護の分野において再就職するのは、そう簡単なことではありません。特に長期に渡って生産ラインで働いてきた人たちは、変化を望まみません。そういう人たちを変化に適応できるようにするには、長い時間をかけるしかありません。

 脱炭素化は、ぼくたちすべてにたくさんの変化を要求します。でもその変化ができるだけ負担にならないように、柔軟に適応できるようにしなければなりません。そうしない限り、脱炭素化に対する社会のアクセプタンスを得ることができません。

 そのためには、時間が必要です。できるだけ早くから手を打って、対策を講じなければなりません。脱炭素化は、社会政策とともに取り組まない限り、実現できません。

2021年6月13日、まさお

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関連サイト:
ドイツ労働施設(Bundesagentur für Arbeit)、ドイツ語
コンチネンタル社、ドイツ語

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