脱蒸気機関、脱内燃機関、脱産業革命

 ドイツ政府が2019年9月20日に決定した気候変動対策の基本内容に対して、ドイツではいろいろと厳しい批判が出ています。ぼく自身も、この内容で2030年までに二酸化炭素を中心とした温室効果ガスを1990年比で55%削減するという目標が達成できるのか、とても疑問に思っています。

 気候変動の問題を考えると、産業活動と市民生活はこれまで通りというわけにはいきません。産業ばかりでなく、生活においても大きな改革が必要とされています。

 ただドイツ政府がいうように、急激に大きな変化を求めても、社会的に受け入れられないのは確かです。改革には、勝者ばかりではなく、敗者も伴います。

 できるだけ敗者が生まれないように、政策的に配慮しなければなりません。そうしなければ、社会が分断するだけです。

 そのさじ加減が、とても難しいと思います。というのは、気候が変化するのは待ってくれません。でも社会的なアクセプタンスがなければ、改革は実現できません。

 気候変動に向けた姿勢において、若い世代と中年から高年世代の間に大きなギャップがあるのも確かです。その状況において、できるだけ広い層からアプセプタンスを得る政策が求められます。

 その点からすると、ドイツ政府が決めた政策は、失格です。これまでの既得権益に配慮しすぎた格好になっているからです。だから、若い世代には納得できません。この政策で、温室効果ガスを削減できるかどうかも疑問です。

 ぼくは、急激な改革を行なうべきではなく、次第に改革していくべきだという政府の見解は間違っていないと思っています。でもこの政策内容では、社会に対してこのままでも何とかなるよというメッセージしか発信していません。

 今必要なのは、このままではダメ、気候変動を止めることができない、だからどうすべきなのか、はっきりとしたビジョンを発信することです。ドイツ政府の決定には、それがありません。

 そして、将来のビジョンとは何か。

 それは、化石燃料を使わない時代がくるということです。化石燃料を使わないとは何かというと、脱蒸気機関であり、脱内燃機関ということです。そしてそれは、蒸気機関と内燃機関を発明した産業革命から脱皮するということなのです。

 これが、本当の意味でのエネルギー転換だと思います。

 そこには、脱原発も脱石炭もすべて含まれます。脱原発も脱石炭も、エネルギー転換のプロセスの一つにすぎません。

 でもこういうと、それでは脱産業化され、経済は成り立たないという批判が出てくると思います。でも、これは脱産業化ではありません。化石燃料に依存しない産業を構築する新しい産業革命なのです。

 エネルギー転換をこう定義しないと、今後の技術開発の方向を見失い、国際競争から取り残されます。

 ただ、こうメッセージを発するだけでもまだ不十分です。脱蒸気機関と脱内燃機関によって、これまでの産業でたくさんの失業者が出てしまいます。だから、改革によって職を失う人たちのことも考えなくてはなりません。

 この問題に対応するには、まず社会的なコンセンサスを求める必要があると思います。

 いつまでに脱蒸気機関と脱内燃機関を実現するのか、社会全体でロードマップを造ります。経済界、労働界、学術界、環境団体、農業団体、若者の代表、中高年の代表など社会のいろいろな層が対話をしてロードマップを作成し、共同で社会的コンセンサスを求めます。

 それにしたがって、改革を進めます。ぼくは、この手法ができるだけ社会を分断せずに、アクセプタンスを得やすい方法ではないかと思います。

2019年9月29日、まさお

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