ドイツで起こった大洪水から考える

 2カ月ほど前に、「気候変動で安全が脅かされる」という記事をアップしたばかりです。そこでは、地球温暖化による気候変動によって異常気象が起こり、洪水や干ばつの起こる頻度が増していることについて書きました。それが、ぼくたち市民の安全を脅かしています。

 ドイツでは、1週間ほど前にドイツ西部で1時間当たり100mmを超えるゲリラ豪雨がありました。各地で一瞬にして洪水になり、これまで160人近くの死者が確認されました。死者数はまだ、増えると予想されています。

 ドイツではすぐに、異常気象/洪水と気候変動の関係が議論されています。今回の洪水も気候変動による影響だということで、概ね一致しています。異常気象は気候変動がなくても起こる可能性があるが、その頻度が増えているのは気候変動の影響だと、科学的に説明されています。

 ドイツでは21世紀に入り、記録的な大洪水が今回も含めて、7回起こっています。その都度、被害額は数10億ユーロ(数千億円相当)に上りました。それだけを見ても、気候変動による経済的影響、特にマクロ経済に与える影響はとても大きいと思います。それは、自然災害ばかりでありません。新型コロナによるパンデミックのような感染症、テロ、有事がマクロ経済に与える影響は計りしれないものです。サイバー攻撃や、原発事故などの産業事故の影響も忘れてはなりません。

 こうした危機に対し、国民の保護や復興支援を事前に計画しておくことはほとんど不可能です。事前に予測できる危機はありません。情報を集めても、情報そのものが互いに釣り合っていません。それを関連づけるのは不可能です。その上、情報の確実性にも疑問があります。

 こうした不確実な状況においては、ぼくたちは何ができるのでしょうか。リスクを軽減するために、リスク管理のシナリオを描いておくことくらいしかできないのではないかと思います。ぼくたちはそれほど、危機に弱い立場に置かれているのだと思います。新型コロナや今回の洪水を見ても、現代社会におけるぼくたちの弱さを露呈させました。

2019年秋の福島県での大洪水の様子。福島県の友人経由で入手

 気候変動で今後さらに、洪水や干ばつなどの自然災害がより頻繁に起こるようになると思うと、ゾーッとします。今回の洪水の特徴は、大きな川ではなく、小川が氾濫して大きな被害になったことです。ドイツでは、大きな河川で洪水がある毎に、洪水対策が講じられてきました。しかしまだ小川では、その対策が不十分でした。いや、小川でそこまで大きな被害が起こることは、想定されていなかったといったほうがいいと思います。

 気候変動がぼくたちの生活の隅々において、大きな被害もたらす危険があることを思い知らされました。ぼくは以前、ミュンヒェン再保険社の気候問題責任者から話を聞いたことがあります。気候変動がマクロ経済に与える影響がとても大きいにも関わらず、経済界においてそこまで意識されず、無策になっているといいます。気候変動が経済に与える影響は大きくなるだけだと、警告していました。

 ぼくはこの問題に対して、気候変動による経済負担を意識化させることが大切だと思っています。しかし気候変動によって起こる影響の負担は、社会全体の負担として一般化され、その原因をもたらす者に対して課せられていません。だから、その負担を意識化できないのです。

 炭素税などが気候変動の経済負担を意識化させる上で、最も効果のある手段だと思います。でも経済界は、炭素税の導入に反対し続けてきました。ただそれによって、気候変動がより激しくなり、マクロ経済により大きな影響が出ることを容認してきたともいわなければなりません。それは、経済ばかりでなく、経済界のいいなりになってきた政治の責任でもあります。

 そのつけが、洪水で被害を受ける一般市民に回ってきているのです。死者まで生んでいるのです。今後そのつけはより大きくなり、より頻繁に、ぼくたち市民が負うことになります。ぼくたちはそれを、はっきりと認識しなければなりません。そして、ぼくたちにできることは何か、考える必要があります。

 経済界においては、企業の社会的責任をより強化して、企業の社会的責任の評価に応じて、お金の流れる仕組みをつくっていくことも必要です。それとともに、気候変動問題と経済活動をリンクさせます。

 なおドイツは2004年、連邦内務省の下にドイツ国民保護災害援助庁(BBK)という機関を設置しました。危機問題に関して省庁間と、連邦と州、自治体を横に連携する中央機関といってもいいと思います。さらに、市民に対して責任ある危機情報を発信する中央機関でもあります。NINAという危機警報アプリを公開しています。今回の洪水では、NINAのおかげで一命を取りとめたという被害者もいました。

2021年7月18日、まさお

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関連サイト:
ドイツ国民保護災害援助庁

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