気候変動対策を社会的にデザインする

 二酸化炭素の排出を実質ゼロとするカーボンニュートラル。ドイツはそれを、2045年までに実現したいとしています。

 その法的基盤になるのが、「気候保護法」です。同法では、これまで課税されていなかった交通と民生部門(熱が対象)から排出される二酸化炭素など温室効果ガスに対して、はじめて「CO2賦課金」を課すことになりました。それは、「炭素税」のようなものです。

 CO2賦課金は、2021年が1トン当たり25ユーロ(約3300円)で、それを段階的に2025年までに55ユーロ(約7200円)に引き上げます。

 それによって得られた税収は、再エネ賦課金を引き下げるために使われます。ロシア・ウクライナ紛争でガス価格が高騰。それを緩和するため、再エネ賦課金は今年2022年中に、撤廃される予定です。

 ドイツのCO2賦課金は、交通と民生部門からの二酸化炭素の排出に課税するはじめてのものでした。それに対して発電など産業部門には、すでにEUの排出権取引制度(ETS)が運用され、CO2が1トン当たり約60ユーロ(約8000円)で取引されています。

 欧州委員会は排出権取引を交通と民生部門に拡大し(ETS2)し、ドイツのように交通と民生部門から排出される二酸化炭素にも課金する計画です。最終的には、ETSとETS2を統合し、排出されるすべての二酸化炭素に課金します。

 ドイツはそれに伴い、EUにおける排出権取引制度の改革に合わせて、いずれCO2賦課金制度を改革しなければならなくなります。ETS2が導入されると、CO2は1トン当たり最低60ユーロ(約8000円)で課金されると予想されます。

 そこで問題になるのは、CO2に対する課金をはじめとした気候変動対策が、低所得者など弱者の負担になりすぎないかということです。気候変動対策に対し、市民のアクセプタンスを得ない限り、カーボンニュートラルを実現するのが難しくなります。

早急な気候変動対策を求めてデモする若者たち。2021年9月24日、ベルリンで撮影

 昨年2021年12月に発足した社民党と緑の党、自民党の中道左派政権は、連立協定において、気候変動対策による市民の負担を軽減するため、市民に「気候手当て(Klimageld)」を給付するとしています。

 気候手当てがどういうものになるのか。それはまだ、これから議論されます。CO2賦課金による税収を、再エネ賦課金の撤廃に使うだけでは不十分です。それはすでに、明らかです。気候変動対策による市民の金銭的負担をさらに、軽減することを考えなければなりません。

 たとえば与党第一党の社民党は、現在、気候手当てを所得に応じて課金すべきだと考えています。ただそうなると、行政側に莫大な作業とコストが発生するのは間違いありません。その結果、気候手当てによる財政負担の増大が問題になります。気候手当てが頓挫しかねません。

 それに対し、環境団体や社会福祉団体などが共同で委託して作成された実現可能性スタディは、すべての市民を対象にして、手当てを一律に給付すべきだと結論しています。

 ドイツでは、出生とともに租税ID番号(日本でいえば、マイナンバーのようなもの)がつけられます。住民登録者すべてが、租税ID番号を持っています。それを利用して、たとえば年間一人当たり130ユーロを所得税の納税額から差し引くなどの措置が最も適切で、社会的でもあると、スタディは提言しています。

 一律の手当てで、なぜ社会的なのか。疑問に思うかもしれません。

 高所得者のほうが、活動範囲も広く、よりたくさんの二酸化炭素を排出します。それには、異論ないと思います。その結果、高所得者のほうがより多くのCO2賦課金を負担します。

 それを考えると、たとえ手当てを一律にしても、高所得者のほうがより多くCO2の排出負担を負います。それに対して低所得者では、実際に負担するCO2賦課金よりも、給付される手当てのほうが高額になると予想されます。

 そうすれば、気候手当てが社会手当てとしても機能し、公平になります。租税ID番号を使って所得税納税と連結させるので、行政コストもそれほど増大しません。

 気候変動政策による負担をいかに公平に分配し、それを社会的にデザインするのか。それについてはまだ、議論がはじまったばかりです。

 しかしその具体策をできるだけ早く確定しないと、一般市民が気候変動対策に反対します。それでは、カーボンニュートラルの実現が遅れる危険も高まります。できるだけ早く、社会全体で議論して、社会的なコンセンサスを得なければなりません。

2022年2月20日、まさお

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関連サイト:
ドイツの気候保護法改正案(ドイツ語)
欧州委員会の”Fit for 55″に関する情報(英語)
社民党、緑の党、自民党の連立協定(ドイツ語)

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