低所得者に気候手当ての給付運動をはじめる

 欧州人権裁判所は2024年4月09日、スイスの64歳以上の女性たちのグループがスイス政府が気候変動問題で最低限必要な対策を講じていないのは、高齢の女性たちの人権を侵害していると訴えていたのに対し、その主張を認める判決をいい渡しました。

 気候変動問題では欧州各国が十分な対策を講じておらず、温暖化によって特に高齢者の健康に大きな影響が出ることがはっきりしているだけに、判決はこの問題に対してはっきりと釘を刺した形になっています。その他の欧州各国にも、影響がでるのは間違いありません。

 しかし気候変動対策には、お金がかかります。それは、産業ばかりでなく、一般市民にも大きな負担となります。各国政府がこれまで、一般市民の生活に対して気候変動問題でメスを入れてこなかっただけに、一般市民にはその負担がより重く感じられます。

 ドイツにおいても、2019年末に制定された気候保護法によってはじめて、交通と民生部門(特に熱を対象とする)から排出される二酸化炭素など温室効果ガスに対して、「CO2賦課金」を課すことになりました。それは、一種の「炭素税」のようなものです。これについてはすでに、本サイトでも「気候変動対策を社会的にデザインする」の記事で報告しました。

公平な気候変動対策を求めてデモする若者たち。2021年9月24日、ベルリンで撮影

 CO2賦課金は、2025年までに段階的に引き上げられることになっています。それとともにCO2賦課金は、低所得者など弱者にとってより大きな負担となります。

 CO2賦課金による負担を軽減するため、2021年12月に発足した社民党と緑の党、自民党の中道左派政権は連立協定において、気候変動対策による市民の負担を軽減するため、市民にCO2賦課金で得た税収から「気候手当て(Klimageld)」を給付することで合意しました。

 しかしウクライナ侵攻戦争勃発後、ウクライナのための軍事支援やウクライナ難民のための人道支援による財政負担がドイツ政府に重くのしかかっています。自国の国防能力を拡大するためにも、ドイツ国防軍の軍備整備に資金を投入しなければなりません。さらに石炭など化石燃料から再生可能エネルギーへの転換を図るため、構造改革にも莫大な資金が必要となっています。

 こうした状況においてドイツ政府の財政はかなり緊迫しており、憲法に相当する基本法においても赤字財政を禁止する規定も盛り込まれています。ドイツ政府には現在、気候手当てを給付するだけの財政的な余裕がないとされています。リントナー財務大臣(自民党)は、気候手当ての給付を2025年に先送りするとしました。

 しかしCO2賦課金の段階的な引き上げが進んでいる現在、低所得者の負担は増えるばかりです。この状況に対応して、現段階でも気候手当ての給付が可能であることを政府に示すため、ドイツの社会福祉団体、環境団体、反原発団体などが共同で、生活保護を受けている低所得者と年金生活者、住居手当て受給者を対象に、気候手当て給付運動を開始しました。

 給付対象は上記の低所得者などで、その中から応募者1000人に対して一人当たり139ユーロ(約2万2,000円)を支給します。資金は、各団体が寄付金を集めて確保しました。たとえば4人家族であれば、556ユーロが給付されます。

 気候変動対策はこれから、一般市民の生活により大きな負担を強制します。しかし単に強制するだけでは、一般市民のアクセプタンスを得ることができません。アクセプタンスを得ることができないと、市民の票が気候変動対策に反対する極右政党に流れるだけとなります。

 高所得者層と低所得者層の格差がより拡大され、気候変動対策に不公平感も生まれます。それでは気候変動対策を効率的に実現できないどころか、民主主義体制自体が崩壊する危機にも直面します。

 たかが気候変動ではありません。気候変動問題は、人類が持続的に存続できるかどうかの基点になる問題です。それくらいの危機感を持って対応しなければなりません。戦争の問題だけに気を取られていてはなりません。

2024年4月10日、まさお

関連記事:
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関連サイト:
気候手当て運動を行なっているドイツ市民団体のサイト(ドイツ語)
社民党、緑の党、自民党の連立協定(ドイツ語)

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