ちょっとしたことで社会が換わる

 以前、ベルリン@対話工房のベルリーナールフトにおいて、ルターの宗教改革はとても大きな社会改革だったと書いたことがあります。

 ルターは、聖書をドイツ語に翻訳しました。宗教を一般市民にわかり、手の届くものにしたのでした。それとともに、社会において一般市民の存在が認められます。市民は、単に上から支配されるだけのものではなくなるのです。

 ルターは聖職者としてタブーを破り、修道女と結婚してこどももつくりました。

 こうして、市民が目覚め、平等感が生まれていったのだと思います。近代は、ルターの宗教改革なくしてなかったと思います。

 ルターの改革は、たいへんな偉業です。でもその根底にあるのは、人を愛するということ、聖書の内容を知りたいという人の根本的な気持ちだったのではないかと思います。

 先日、ドイツの芸術家グンター・デムニクさんに話を聞く機会がありました。グンターさんは、ドイツばかりでなく、ヨーロッパにおいてホロコーストで犠牲になった個人個人の記録を石に刻んで、その石を個人の住んでいた家の前に埋めるプロジェクトを続けています。

 それを「つまずきの石(Stoplerstein)」といいます。

 石表面の真鍮板には、いつ強制収容所に連れていかれたか、個人の記録が記載されています。それを犠牲者の暮らしていた建物の前の歩道に埋め込みます。

つまずきの石

 つまずきの石については、ベルリン@対話工房のベルリーナールフトやインスタグラムで何回も取り上げてきました。

 アウシュヴィッツが解放された1月27日やドイツが降伏した5月8日、あるいはユダヤ教会が放火された11月9日(水晶の夜)になると、つまずきの石がきれいに磨かれていたり、石の横に花が置いてあったり、ロウソクが灯っていたりします。

 ぼくは、つまずきの石は過去の酷い歴史を日常生活に「埋め込んだ」とてもすばらしいプロジェクトだと思います。日常生活においてふとつまずきの石を目にしただけで、過去の歴史を思い出すことになるからです。

 ぼくはグンターさんに、「つまずきの石によって、社会は何か変わったでしょうか」と聞いてみました。

 グンターさんは、「変わったと思う」といいました。

 特に戦争を知らない世代が、つまずきの石の個人の歴史をきっかけとして、ナチス・ドイツの過去について自分で調べるようになったといいます。学校においても、先生と生徒が一緒になって犠牲者個人の歴史をたどっていくプロジェクトなどもあったといいます。

 つまずきの石は、縦横高さがそれぞれ10センチメートル程度の小さな石です。グンターさんは20年以上に渡って、ドイツとヨーロッパ各地でつまずきの石を埋めてきました。石はもう、7万5000個を超えました。その95%は、グンターさん自らが埋めたものです。

 小さな石が一つ一つ、戦争の過去を生活の中に取り込み、末長く伝えてくれます。

 ソウルの日本大使館前には、従軍慰安婦のためのつまずきの石が、北海道には、朝鮮人強制労働者のためのつまずきの石もあるということです。

(2020年2月28日、まさお)

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インスタグラムのストーリーズ「つまずきの石」
(インスタグラムのアカウントが必要)

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