新型コロナと共生する

 前回、新型コロナ対策によって基本的人権を制限する場合、ある特定の権利が優先されるのではなく、それぞれの権利の間でその都度その都度バランスを取ることが求められると書きました。

 新型コロナではワクチンができるまで、ぼくたちは新型コロナと一緒に生きていかなければなりません。その現実を無視してはなりません。

 現在、世界中でワクチンの開発が行われています。たとえワクチンができても、臨床実験を行なって、その効果と副作用の問題を確認しなければなりません。それでようやく、ワクチンの使用が許可されます。

 ワクチンが許可されると、次にそれを大量生産して世界中に分配します。それにもかなり時間がかかることが予想されます。

 この手順を考えると、ワクチンは早くとも来年2021年中頃にならないと、注射してもらえないと思います。

 ぼくたちは、まだ1年余り新型コロナとともに生きていかなければなりません。これから夏になって、感染者数が減ると思います。でも秋から冬に第二波がきて、感染者が再び急増することが心配されます。

 その時、再びロックダウン(都市封鎖)は必要なのでしょうか。ぼくたちは、そのために準備をしておかなければなりません。

 新型コロナは、人の命に関わる問題です。でも、人の命は新型コロナだけに影響されるわけではありません。ロックダウンで経済活動が縮小されて失業者が増大します。その結果、生活できない人がでてきます。となると、自殺者が増えることも予想されます。

 あるいは、ロックダウンで自宅で家族が一緒に生活する時間が長くなると、家庭内暴力が増える可能性もあります。それによって、亡くなってしまう人がでることも心配されます。

 新型コロナは、医療の問題ばかりでなく、経済や社会上の問題も引き起こします。その時、何を優先させるべきなのか。それについても議論する必要があります。

 ぼくはここでも、その都度その都度バランスの問題が問われるのだと思います。

ベルリンのスーパーマーケットの前で、ソーシャルディスタンシングをとって並ぶ市民

 先週2020年5月13日、ドイツのifo(経済)研究所とヘルムホルツ感染研究センターが興味深いスタディを発表しました。スタディは、実効再生産数Rtと新型コロナによる経済損失の関係について解析したものです。実効再生産数Rtとは、感染者が直接感染させる平均人数のこと。Rt=1なら、感染者数は増えません。Rt>1なら感染者数が増大、Rt<1なら感染が収束します。

 スタディは、Rt=0.1、Rt=0.5、Rt=0.75、Rt=1,0のシナリオで、それぞれの場合の経済損失を解析しました。経済損失は、ドイツがロックダウンを段階的に緩和し出す2020年4月20日から、ワクチンが出ていると想定される2021年7月までを換算します。

 ここでは、PCR検査がこれまで以上に拡大され、保健所が1日当たり新感染者数が300人までであれば、感染ルートを解明して濃厚接触者を把握し、隔離できることを前提にしています。

 その結果、Rt=0.75になるように制限を緩和すれば、最も経済損失が少ないとの結論が出ました。

 感染問題を他の分野の問題と関連付けて解析するスタディとしては、世界でもはじめてのものではないかと思います。その結果、制限が厳しすぎても、緩すぎても経済損失が大きい。バランスを取って制限を中庸に緩和すれば、最も経済損失を抑えることができることがわかりました。

 ただこれは、ドイツの医療体制と保健体制、さらに経済構造を基盤にしています。それをそのまま日本に適用するわけにはいきません。日本では、検査があまり実施されていません。保健所が感染ルートを把握できる能力も、人材不足でドイツより小さいのではないかと推測されます。その分、Rtが0.75より小さくならないと、経済損失が最小にならないのではないかと思われます。

 また、新型コロナで最も影響を受ける観光産業などの経済規模がどうなのかも考慮しなければなりません。ただRt=0.75というのは、その他の国においても出口戦略を考える上で、一つの目安になるのは間違いないと思います。

(2020年5月22日、まさお)

関連記事:
新型コロナ対策は憲法違反か

関連サイト:
ifo(経済)研究所とヘルムホルツ感染研究センターの共同スタディ(ドイツ語)のダウンロード

この記事をシェア、ブックマークする

 Leave a Comment

All input areas are required. Your e-mail address will not be made public.

Please check the contents before sending.