成人するということ

 ドイツでは、18歳で成人します。それとともに、選挙権と被選挙権を得ます。18歳以上のこどもが家出をしたと警察に届けても、成人だからと警察では相手にされません。

 ドイツ社会では、18歳になると自立した大人とまではいわなくても、成人した社会の一員として扱われるということです。

 ぼくには、里子のようにしている女子が一人います。この子には、軽度の知的障害と身体障害があります。家庭の事情から、8歳の時にこども用の養護施設に入り、障害者用の学校に通っていました。

 その子も、今はもう20歳。ドイツでは障害者も、18歳になるまでは障害者用の学校で勉強し、その後3年間の職業訓練を受けて手に職をつけます。18歳で職業訓練をはじめるのは、障害のない者よりも少し遅い。でも3年間の職業訓練を受けるのは、障害のない者と変わりません。

 今その子は、障害者用の工房で職業訓練を受けています。それもまもなく終了し、独立した一人の女性として工房で働きながら、生活することになります。

 こども養護施設には、職業訓練が終わるまでいることができます。ただそれまでに、成人用の施設に移らなければなりません。

 里子の女子も、2カ月前に若い障害者用のグループホームに引っ越し、新しい生活がはじまりました。その時彼女は新しい環境について、「まったくゼロからはじまった感じ」として、戸惑いを隠せませんでした。

 それまでこどもの施設では、介護スタッフが何かと面倒を見てくれました。でも今は、自分の部屋の片付けをはじめとして、ほとんどのことを自分ですることが求められます。

 彼女にとって、それまで小さなプールで泳いでいたのが、いきなり大きな海に放り出されたと感じでいるのだと思います。

 こども施設での教育方法を振り返ると、障害者たちが成人して親の力を借りずに独立して生きていけるようにするためのものだったと思います。その間に、いろいろなことが自分でできるようになりました。

 18歳の誕生日に施設から渡されたプレゼントは、スマートフォンでした。それにはむしろ、さすがだと驚かされました。その施設では、18歳になると、自分のスマホを持てるようにしているといいます。

 今の時代では当然です。その時、18歳になったらスマホを渡すが、こども用の使用制限アプリを入れて使いすぎないようにするので、安心してほしいと、事前に連絡がありました。

 スマホの使い方も介護スタッフに手取り足取り教えてもらい、もう自分でスマホを使えるようになっています。電話はもちろん、ショートメッセージや電子メールもできます。LINEも使えます。

 もちろん成人すると同時に、成人後見人もつきました。

 成人したのだから、障害者であっても成人として扱う。それは、それで当然です。そのほうが、本人のためになります。

 この新しい状況には、むしろぼくのほうがどう対応すべきなのか戸惑っています。これまではこども施設といろいろ調整できました。でも今、新しい成人施設ではそれさえもあまり必要ないとされている状態です。

 彼女はいずれ、親も失い、こどもの時にサポートしてくれた大人の友人たちも失います。一人で生きていかなければなりません。それを思うと、新しい成人施設での生とともに、一人で独立して生きていくことを学んでいるのだと思います。

 でも、生まれた直後から知っているぼくとしては、成人することの意味というか、その重さについて、これまでとのギャップの大きさに困惑せざるを得ません。

(2020年9月11日、まさお)

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