コロナ禍でニセ情報の広がる5つの方法

 現在、フェイクニュースが問題になっています。ソーシャルメディアの普及で、いかさまの都合のいい間違った情報が次々と、簡単に広がっています。

 コロナ禍のような緊急事態では、ニセ情報がより簡単に拡散しやすくなっています。何も考えずに、それを信じてしまう人も結構います。

 ニセ情報を先導する政治家として、米国のトランプ前大統領を忘れることができません。トランプ前大統領を支持する陰謀論信仰者グループ「Qアノン」も、世界各地に拡散しています。

 だたこうした陰謀論は、どちらかというとわかりやすい現象ではないかと思います。

ドイツのワクチン接種キャンペーンのポスター

 それに対して、一般的に気付かれないままニセ情報が広がる方法もあります。以下では、その5つの仕組みについて簡単に書いてみたいと思います。

1)ニセ専門家(Fake Experts):
 コロナ禍では、専門家といわれる人たちがたくさん登場しています。でも、ウイルス学や感染学について知らない自称専門家が、コロナウイルスのことについてよく知っているかのようにして話していないでしょうか。哲学者にウイルスのことがわかりませすか。ウイルスのことを知らないジャーナリストに何がわかりますか。
 日本では、何が専門かわからない評論家という人たちがたくさんいます。そういう人たちがウイルスについて知ったかぶりをして議論しています。専門知識のないタレントがコメンテーターとして、ニュース番組(ぼくにとって、日本のニュース番組はみんなバラエティ番組ですが)に登場しているのもおかしくないですか。
 こうして、科学のことをよく知らない人たちが、科学の知識が必要なウイルスの問題について公然で話をします。
 これは、科学を無視したニセ情報です。

2)論理の誤り(Logical Fallacies):
 ここではたとえば、新型コロナとインフルエンザを同等にすることなどが、その典型的な事例です。
 インフルエンザウイルスには、人類はすでに何回も感染し、抗体を持っています。後はその後に現れる変異種に合わせて、ワクチンを微調整するれば済みます。
 それに対して新型コロナウイルスには、人類がはじめて遭遇しています。それに対する抗体が体内にありません。
 その点からして、感染の度合いも、感染に対する対策も、必然的に違ってきます。
 その違いを無視して、インルフエンザと新型コロナは比較することができません。でもそれを無視して、インフルエンザと新型コロナウイルスを比較して議論している”専門家”がいませんか。
 これは、飛んだ論理の間違いです。そこに惑わされてはなりません。

3)不可能な期待(Impossible Expectations):
 たとえば日本では、PCR検査は正確ではないから検査しても意味がないとよくいわれました。それが当初、日本で検査が行われなかった一つの背景です。
 でも、100%正確な検査など、どこにありますか。どこにもありません。それは、科学の宿命です。
 それを、検査結果が正確でないという理由から検査をしなくてもいいと議論するのは、大間違いです。
 その不正確さをどうカバーするのか。その方法を考えるのが科学の役割です。そのほうが、よっぽど建設的です。
 また、ワクチンを接種さえすれば、新型コロナの問題は終わったとするのも大間違いです。それも、不可能なことに期待を持たせることになります。
 ワクチンを接種してもウイルスを保持し、誰かを感染させる危険があります。これは、ワクチンの作用ですでに体内に抗体があるので感染しても症状が出ないだけの話です。だから自分では気づかないまま、誰かを感染させてしまいます。
 さらに変異種がどんどん出てきますから、いずれそれに対してワクチンを再開発して、新たにワクチンを接種しなければならなくなります。
 これが、パンデミックの現実です。新型コロナによるパンデミックはまだまだ終わりません。へたに不可能な期待を持ってはなりません。

4)チェリーピッキング(Cherry Picking):
 チェリーピッキングとは、自分の考えに適するものだけを自分の都合のいいように選んで論理を組み立てることをいいます。選んだものが、少数派の論理であったり、信憑性に欠けていても、それを問いません。自分の都合にさえ合えばいいということです。
 これが、科学的でないのは明らかです。
 たとえばコロナパンデミックがはじまった頃、学校では生徒間で感染する可能性は少ないといわれました。そのために、まだ十分に調査されないままに発表されたスタディが、学校を開校するための根拠に使われていました。
 でも現在、学校でも感染が広がっていることがはっきりとわかっています。スタディの不確実性を無視して、学校を開校するために、こどもたちが感染を拡大させないとするスタディが故意に流用されました。
 ドイツのウイルス学者、ドロステン教授は、コロナ感染者が広がる要因は、個人生活における人と人との接触、学校など教育機関におけるこどもたち同士の接触、職場における人との接触にあることが、これまで世界各国で発表されたスタディから明らかになっているといいます。
 感染者を抑えるには、人と人との接触を抑えるしかありません。
 でも政治は、感染経路がはっきりしないとして、感染の起こりやすい3つの分野で徹底して接触を抑える対策を講じていません。
 となるとこれも、一種のチェリーピッキングではないですが。自分の都合のいいように、それに反するスタディを利用しないからです。

5)陰謀論(Conspiracy Theories):
 陰謀論について、いうまでもないと思います。でも、それを簡単に信じてしまう人たちがいるのはどうしてなのか。それについては、その背景をもっと議論する必要があると思います。

 こうしてコロナ禍において、意識しないままにニセ情報が広がっています。メディアもそれに、一役も二役も買っています。それは、メディア自体がウイルスのことをよく知らないからです。

 ドイツでは昨年春、新型コロナウイルスによる感染が拡大した時、政治もメディアも専門の科学者の意見をよく聞いてきました。しかし今、それがほとんど無視されるようになっています。ウイルス学者のメディア露出も激減しています。

 ドイツで今、新型コロナパンデミックの第3波が起こっているのは、政治が科学者の警告を無視して十分な政策を講じてこなかったからだといわなければなりません。

 ではどうして、科学は無視されたのでしょうか。

 一つに科学者の意見を聞いているだけでは、社会問題、経済問題を解決できないとの思いが強くなってきたからです。でもパンデミックを早く抑えるために、対策を厳しくしておれば、社会問題も経済問題もここまで大きくならずに済んだはずです。

 でも目先しか見ていないから、政治は目先の対策ばかりに先走りします。それが、感染をより拡大し、長期化させてしまったといわなければなりません。

 さらに政治が、コロナ禍で打撃を受ける経済団体などのロビー活動に屈してしまったからでもあります。経済界は往々にして、目先の利益しか考えず、長期的な視野に立って考えていません。

 前述した5つの方法は頭文字をとって、「FLICC(ドイツ語ではFLURV)」といわれます。科学的な知見を無視して、ニセ情報を拡散して信じ込ませる手法といってもいいかと思います。

 ただFLICCは、コロナ禍においてだけ起こる問題ではありません。たとえば気候変動や原発問題においても、気付かれないままこれらの方法が浸透しています。

(2021年4月03日、まさお)

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関連サイト:
ドイツでコロナ対策に反対してデモするグループのサイト(ドイツ語)

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