「コロナデモ」の真相
新型コロナウイルスが蔓延し、各国でロックダウン(都市封鎖)によって外出制限などが課せられてきました。現在、規制は徐々に緩和されています。ただドイツなどヨーロッパ各国では、ロックダウンによる制限に反対して、毎週「コロナデモ」が行われてきました。
デモでは、ウイルスを封じ込めるために自由が制限されることに対し、民主主義が崩壊するとか、憲法違反だとの主張がありました。その一方で、ビル・ゲイツの陰謀説を唱える市民や、ワクチン強制義務に反対する市民、新型コロナ対策はヒステリーだと批判する市民など、いろいろな市民がデモに参加しました。また、「メディアは嘘つき」と、既存メディアを非難するばかりでなく、取材するジャーナリストに暴力を振るうケースも見られました。
日本では、それを「コロナデモ」として、社会にじわりと拡大していると報道されています。でもそのデモは現在、どうなっているのでしょうか。コロナデモは実際に、社会にじわりと浸透してしまったのでしょうか。
コロナデモでは、回を重ねる毎に参加者が減っていきました。現在、ほとんどしぼんだ状態になっています。新型コロナによって制限されたのは、一部の市民だけではありません。すべての市民でした。でも一般市民の多くは、デモに賛同しませんでしたた。コロナデモは現在、ほんの一部の市民に支援されただけでほとんど終わっています。
でもデモが収束したからと、それだけでコロナデモを片付けてはなりません。デモに参加していたのは、どういう市民なのか。どういう社会的な背景があったのか。デモの真相を見ておかなければなりません。
ぼくはこの問題で、ドイツ公共放送ARDの記者オラーフ・ズンダーマイアーさんに話を聞く機会がありました。オラーフさんは、2014年10月にはじまったペギーダ(西洋のイスラム化に反対する欧州愛国者)による反イスラム運動をはじめてとして、市民の抗議活動を中心に取材してきたジャーナリストです。
オラーフさんによると、コロナデモの背景で実際にどういう人たちが扇動しているのかよくわかっていないといいます。でもオラーフさんには、コロナデモもその根本はペギーダによる反イスラム運動と同じだと映ります。反政府主義、反エリート主義、反メディア主義です。
こうした勢力は、ペギーダ発足以降、プロフェッショナル化し、より組織的に活動するようになっています。それをロシアのニュース専門局RT(ロシア・トゥデイ)が加担して、より扇動する形にもなっています。
オラーフさんは、こうした勢力の拠点がドイツ西部のバーデン・ヴュルテムベルク州とノルトライン・ヴェストファーレン州にあると見ていました。それで今回、コロナデモで中心になったのがバーデン・ヴュルテムベルク州の州都シュツットガルトだったのもうなずけます。その背景にはさらに、ドイツ極右政党AfD(ドイツのための選択肢)がいるとも推定していました。
社会には現在、フェイクニュースや懐疑主義が蔓延しています。ニセの情報がでたらめだとわかっていても、それをウソだと裏付けるのがたいへん難しくなっています。懐疑的に物事を見る市民は、事実をまったく信じなくなっています。その代わりに、自分にとって都合のいいことだけに耳を傾けます。その論理は単純であれば単純であるほどいい。そのほうがわかりやすいからです。
新型コロナの問題では、科学も信用しません。それを理解すること自体がたいへん難しいからです。
そうした市民が過激になる一方です。こうした反政府的な活動は、極右や極左にも支援されるようになります。さらにイスラム過激派も加担します。
オラーフさんには、コロナデモはペギーダの活動からの延長のように映っています。こうしたプロセスは現在、社会全体の問題だと指摘します。
ぼく自身は、その根がドイツではもっと前の1990年代はじめにあったと思っています。当時の反難民運動です。そこで、ネオナチなど極右派が台頭しました。でも、その動きに対して毅然に対応してこなかった。それが今、反政府的な勢力が拡大し、組織化してきた元々の根ではないかと思っています。それが、根から育ってきたということです。
社会がコロナデモの扇動にも屈せず、同調しなかったのは、社会が成熟しているなとも感じます。ただ一方で、こうした反政府主義的な活動を扇動する勢力は、また次の機会がくるのを手ぐすねを引いて待っています。コロナデモは失敗しました。でもいつ何時、過激な活動が社会全体に拡大する機会がくるのかどうかわかりません。予断は許されません。
ぼくが最も心配しているのは、こうした活動で極右と極左が連合することです。極右と極左が主張することに大きな差はありません。国家主義かどうか。それが、両者を区別しているだけです。その両者が連合すると、社会はとても危険な状態になります。
でもオラーフさんは、今のところ両者が手をつなぐ兆候はないと話してくれました。
(2020年6月12日、まさお)
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