シルバー民主主義から抜け出す

 ぼくは以前、「高齢者の選挙権を制限すべきか」という記事を書きました。これは友人から、16歳の息子が、高齢者は何歳まで投票していいかを制限すべきだと主張していると聞いたからでした。

 明日2021年9月26日は、ドイツの国政総選挙に当たる連邦議会選挙の投票日です。

 選挙戦では、気候変動問題が最も重要なテーマになると予想されました。しかしいざ蓋を開けて見ると、有権者の関心は気候変動問題にあっても、年金問題や社会の公平性など社会政策に焦点が向けられていました。

 ドイツの有権者は現在、約6000万人余り。そのうち60歳以上が2300万人と、有権者の38%を占めます。それに対して、18歳から29歳の有権者は全体の14%余りにすぎません。

 社会が高齢化するに伴い、有権者の構成がアンバランスになっているのがわかります。この状況では、政治が「高齢者ファースト」にならざるを得ません。「シルバー民主主義」になっているといわなければなりません。多くの有権者が公平性に関心があっても、その公平性は世代間の公平さではありません。今の社会の豊かさを分配することに対して、公平さが必要だといっているにすぎません。

 気候変動問題は、直接の問題である気候変動ばかりではなく、社会の高齢化という問題にも直面しているといえます。高齢者にとり、気候変動問題は自分の生活からは遠いのです。ぼくの知人の高齢者たちはよく、ベルリン市内に自転車専用道路が増え、自動車の邪魔になった仕方がないと嘆いています。そこには、若者たちにとって将来死活問題となる気候変動問題ではなく、自分の今の生活のことしか頭にありません。

 高齢者には、年金問題や介護問題のほうが自分の生活に関わる重要な問題です。若者の将来にまで目が向きません。

 有権者では高齢者層が多いので、政治もどうしても気候変動問題よりも、年金問題に重点を置いてしまいます。ただ若者の将来にとって、気候変動問題は死ぬか、生きるかに関わる重大な問題です。それに対して若者の中には、危機感があります。

 気候変動問題は、かなり前から指摘されていました。しかし政治と経済は、目先の課題にしか目を向けず、気候変動問題を先送りにしてきました。そのツケが今、目に見えるように現実の問題になろうとしています。ドイツでは今年2021年夏、集中豪雨で200人近くが亡くなっています。それも、気候変動の兆しを示すものです。

 かといって、若者の将来に関心のない高齢者ばかりではありません。自分の孫やその後の世代のことを考えると、黙っておれない高齢者もいます。たとえば若者中心に企画されている大きな気候デモでは必ず、おばあちゃんグループが参加しています。「右翼に反対するおばあちゃんたち(Omas gegen rechts)」や「将来のためのおばあちゃんたち(Omas for Future)」です。

連邦議会選挙直前に行われた2021年9月24日の気候デモに参加する「将来のためのおばあちゃんたち(Omas for Future)」。連邦議会議事堂前で撮影
連邦議会選挙直前に行われた2021年9月24日の気候デモに参加する「右翼に反対するおばあちゃんたち(Omas gegen rechts)」。連邦議会議事堂前で撮影

 そうはいっても、それだけでは現実の問題を解決できません。有権者構成のアンバランスさを解決する一つが、選挙権年齢を引き下げることです。日本では、選挙権年齢が18歳に引き下げられたばかりです。ドイツでは、選挙権年齢を16歳に引き下げることが議論されています。

 ドイツの州議会選挙や地方選挙においてはすでに、選挙権年齢を16歳以上にしているところがあります。これをさらに、国政選挙の連邦議会選挙にも広げようというものです。明日2021年9月26日が投票日となる連邦議会選挙でも、社民党と緑の党、左翼党はその選挙マニフェストで、選挙権年齢を16歳に引き下げると明記しています。

 それに対して、保守系の政党は選挙権年齢の引き下げに反対しています。表向きには、若者の投票率が低いからというのがその理由です。しかし実際には、高齢者を地盤にし、若者に人気がないので、選挙権年齢が引き下げられると不利になるからにすぎません。

 若者が政治に関心を持って選挙で投票するようにするのは、大人の問題でもあります。今回の連邦議会選挙では、小学生や中学生が首相候補に直接質問するテレビ番組が増えました。ドイツの小中学生が今の政治のことをよく知っているなと、びっくりさせられます。

 ドイツでは、政治教育センターという公的機関だけが、連邦議会と州議会において自分の考えに近い政党をオンラインでチェックするボートマッチを公開します。そのボートマッチは、はじめて選挙権を得た若者を中心に政治教育センターが募集して、若者たちによってつくられます。立候補者を立てる各政党に出す質問の内容を教育専門家のサポートを得ながら、若者たちが議論して決めます。その質問に返ってきた回答をさらに分析して、ボートマッチをつくります。

2017年9月の連邦議会選挙前に、自分たちでつくったボートマッチを各党幹事長に紹介する若者たち(黄色いTシャツ)。プレスハウスでの連邦政治教育センターによるプレゼンテーションで撮影

 各学校においても、模擬選挙などが行われています。ぼくは福島県の高校生たちと一緒にドイツの高校(ギムナジウム)の政経の授業に参加したことがありますが、その時の課題は、政治的な内容の新聞記事の間違いを探すものでした。普段から政治に関心を持っていないと、授業にはついていけません。

 日本では若者の間で政治的な話しをすると、すぐに「ダサい」といわれたりします。それは一つに、家庭内で親子で政治の話や日本の過去について話していないからだと思います。さらに学校など教育の場では、政治について議論するのがタブーだからです。

 こうした日常から変えていくことが、ぼくにはとても大切だと思えます。

(2021年9月25日、まさお)

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関連サイト:
社民党の選挙マニフェスト(ドイツ語)
緑の党の選挙マニフェスト(ドイツ語)
左翼党の選挙マニフェスト(ドイツ語)

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