難民問題、2015年と2022年の違い

 ウクライナ戦争がはじまり、1ヶ月以上経ちました。戦争はまだ、続いています。その結果、今、毎日たくさんの難民がウクライナからポーランドなどの国境を経て、欧州連合(EU)に避難しています。

 2015年もヨーロッパには、シリアなどからたくさんの難民が入ってきました。

 当時、入ってきた難民の数は1日に約1万人。それが今は、1日当たり約4万人です。この数字を見るだけでも、今年2022年の難民流入のすごさがわかると思います。

 しかし国境を超えてEU域内に入る時、今回は、2015年の時のような混乱がないように見えます。2015年は、難民流入に対してまったく準備ができていませんでした。今回は、その時の教訓からたくさんのことを学んでいたのはいうまでもありません。

 ポーランドなどの国境の状況を報道する映像を見ると、ウクライナからの難民は国境での検査もなく、すんなりとEU域内に入っているように見えます。その後も、移動は自由。何も検査されていないように見えます。この状況は、2015年に比べると、たいへんな違いです。

 それは単に、過去の教訓から得たノウハウがあるからだけなのでしょうか。

 それは一つに、ウクライナとEUの間で、2017年に入国ビザが不要になったからです。そのため、ウクライナからきた市民はパスポートがあれば(実際には、パスポートがなくても)、合法的にEU域内に入国し、90日間シェンゲン圏を自由に移動することができます。日本人がヨーロッパを観光する時と、同じ扱いだということです。

 その点で、入国するのに入国ビザを必要とした2015年の難民とは、扱いが大きく違うのです。2015年の場合、難民は入国ビザが必要なのに、ビザを所有していなかったので、合法的に入国することができませんでした。まず、難民申請をしなければなりませんでした。それが、国境で大混乱した大きな要因でした。

 その意味で、ウクライナから逃れてくる市民は法的には、保護を求めて入国し、難民申請をしなければならない「難民」ではないのです。

 戦争を逃れてウクライナからEU域内に入国した市民といったほうが、適切かもしれません。EU域内に入ると、観光目的と違い、一時的な保護が認められます。滞在したいEU加盟国において、まず1年間の滞在許可を申請することができます。現在、2023年3月4日までの滞在が認めれ、滞在許可は今のところ、2024年3月4日まで延長できることになっています。欧州委員会はそれを、さらに1年間延長して2025年3月4日までとすることも検討しています。

 一時的な保護権を得ると、住宅を得て住む権利、社会保障を受ける権利、医療サービスを受ける権利、こどもである未成年者を養育する権利、こどもに教育を受けさせる権利、働く権利、銀行口座を開設する権利を得ることができます。

 ウクライナ市民はそれに加えて、国際的な難民申請も行うこともできます。ただしその場合、難民申請をするほうが手続きが複雑なので、一時的な保護権を得るだけで滞在したほうが、EUにおいて簡単に滞在して働くことができます。

 一時的とはいえ、これだけの権利をウクライナから逃れてきた市民に対して、入国後すぐに認めるというのは、とても人道的だと思います。日本では考えられないと思います。これらの措置は、EUの政治判断で決まったものです。そうしなければ、2015年と同じように、大混乱した可能性もあります。その意味で、そうせざるを得なかったともいえます。

ベルリン中央駅に到着したウクライナから逃れてきた市民

 入国したウクライナ市民(難民)の数は、生半可ではありません。ロシアによるウクライナ侵攻のはじまった2022年2月24日から3月末までに、400万人以上がEU域内に入国してきました。今後2週間で、さらに200万人が流入してくるものと予想されています。

 これは、とても莫大な数です。ウクライナ市民の大移動といっても過言ではありません。

 これだけの人をどうやって受け入れるのか。2015年、2016年のように難民がドイツに集中するようでは、ドイツに受け入れるだけの余裕がありません。EU加盟国間で適切に分配しない限り、これだけの難民を受け入れるのは不可能です。ただこの問題では、難民の分配で合意できずに混乱した2015年の教訓が生かされていません。

 当時難民受け入れを拒否したポーランドやハンガリーが、ウクライナ市民を受け入れています。それは、大きな進歩です。しかしEU加盟国は、国家間で難民を分配することでは合意していません。

 現時点では、ウクライナ市民を受け入れる地元自治体や市民有志、その他ボランティア団体の活動におんぶしている状況です。ウクライナ市民はそうした支援がない限り、受け入れ先を見つけることができません。この状況が長く続いて難民が増えるだけだと、いずれ受け入れを容認する地元市民のエンパシーが崩壊してしまう危険があります。

 そうなると、2015年と2016年のように、ウクライナ市民受け入れに反対する勢力が拡大する可能性もあります。

 その意味で、現在の状況は、とても薄い氷の上を滑っているだけのように見えます。氷がいつ割れるか、わかりません。社会の意識が反転しない前に、政治がはっきりとした意思表示をする必要があります。そうしない限り、7年前の過ちを繰り返しかねません。

 今回は、ウクライナ難民の状況と政治の対応について書くだけに留まりました。でも今回の社会の難民への対応と問題には、2015年とは違い、もっと社会の根底に根付いたものがあると感じています。次回は、それについて書くことにします。

(2022年4月02日、まさお)

関連記事:
2022年2月24日

関連サイト:
欧州安定イニシアチブ(European Stabiliy Initiative=ESI)の提案(英語)

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