ベルリンの慰安婦少女像問題に対する日本の対応が、反日感情を生んでいる

 ベルリンでは4年前の2020年9月28日、慰安婦少女像の「平和の少女像」が除幕されました。少女像が設置されたのは、ベルリン中心のミッテ区住宅街にある公園の角。公共地に設置されるのは、ドイツではこれがはじめてのことでした。

 ドイツではそれまで、慰安婦少女像が2カ所で設置されています。いずれも私有地でした。それに対して在ドイツ日本大使館は、恥ずかしくなるくらいの無様なスパイまがいの行動をして、妨害しようとしました。

 平和の少女像がはじめて公共の地に設置される時も、日本外務省と日本大使館は徹底して妨害しようとしました。しかし結局、うまくいきませんでした。ドイツ側は、外交上の義務は果たしたとの考えでした。

 その後ベルリンでは、保守系の市長が誕生します。市長が今年2024年5月日本を訪問した時、上川外相と会談し、少女像を撤去してほしいと強く要請されたといわれます。

 日本側のいい分は、日本人は慰安婦少女像のことを不快に思っているので、早く撤去してほしいというものです。

 市長は日本から戻るとすぐに、少女像のあるミッテ区の区長(緑の党保守系)に政治的な圧力をかけたといわれます。ぼくはミッテ区に暮らしているので、区住民として区議会において質問できる制度を利用し、少女像撤去問題で質問しました。区議会において少女像問題で区長が答弁するのを聞いていると、区長が上から圧力をかけられ、身動きできなくなっているのだなあと感じました。

 区議会では、これまで何回も平和の少女像の維持・保存を求める決議がされています。しかし区長はそうした民主的な手続きを無視し、少女像を今月9月末までに撤去することを求めています。

 平和の少女像「アリ」は設置後4年経ち、地元地区の生活において一つの構成要素になっています。地元住民からは慰安婦像というよりは、戦争の性暴力を警告する記念碑として受け止められています。それが、日本側には理解されていません。

 その像がなくなると、住民は生活に一つの穴が空いたように感じると思います。

平和の少女像「アリ」を守るためにミッテ区役所前で行われた抗議デモ集会。写真からわかるように、集まったのは主にドイツ人などだった

 アリの撤去に抗議するデモ集会を見ても、参加者はドイツの支援者が圧倒的に多く、韓国人や日本人はごく少数になっています。アリ保存を陳情する住民の署名運動でも、短期間で必要な署名数が集まりました。それは、住民がアリを残してもらいたいと希望している証です。

 これらの事態を見ても、アリが戦争の性暴力を警告する記念碑としてベルリンにとって必要な記念碑になっているのがわかります。ベルリンにはホロコースト記念碑をはじめ、たくさんの記念碑があります。しかし性暴力をテーマとした記念碑はまだ、アリの平和少女像しかありません。

 よりによって世界各地で戦争が起こり、女性が性暴力の犠牲になっている時期に、アリの平和少女像を撤去せよとは、政治家としてこの問題を無視したいのかと疑いたくなります。

 ベルリン市長が日本側のいい分だけを聞いて住民と対話せず、住民の意思を無視しているのがわかります。

 それに加え、アリの平和少女像を設置したコリア協会が青少年を対象に行なってきた戦争の性暴力をテーマとした教育プロジェクトに対する助成金もカットされてしまいました。

 この問題では、助成金給付を最終審議する委員会の委員が決定前に、在ドイツ日本大使館から食事に招待されていたことが、地元のメディアで報道されています。さらに、ベルリン市長が委員会委員に圧力をかけていたとも伝えられています。

戦争における性暴力をテーマとして教育プロジェクトが行われていた学校の生徒たち。生徒たちも、平和の少女像「アリ」を守るべきと主張し、それを撤去させようとする政治家たちのことを恥ずかしいといった

 先日ミッテ区役所前であった抗議デモ集会では、学校で戦争の性暴力教育プロジェクトに参加していた高校生たちがスピーチしました。高校生たちの話からすると、高校生たちはプロジェクトにおいて、慰安婦問題を一つの事例としてしか捉えておらず、問題が戦争における性暴力にあり、それによって女性が犠牲になっていることがはっきりと自覚されていました。

 日本側が主張するように、慰安婦問題だけに焦点を当てて教育されていたわけではありません。高校生たちは、日本側が思っているほど単純に考え、洗脳されてきたわけではありません。戦争の性暴力をテーマにして、戦争と平和、政治と民主主義について学んできたのでした。

 それを妨害しようとするベルリン市長をはじめ、ベルリンの政治家たちのことが恥ずかしいと、生徒たちはいいました。

 生徒たちは地元メディアの報道から、日本の外務省や在ドイツ日本大使館が裏でいろいろ工作してきたのを知っています。

 学校で教育プロジェクトを担当してきた先生は、生徒たちに反日感情が強くなっているのが感じられるといいました。これまでプロジェクトで行なってきた民主主義教育もこれで続けることができなくなったと、落胆していました。

 日本外務省や在ドイツ日本大使館には、慰安婦問題しか頭にありません。しかしベルリンではそこから戦争の性暴力と平和の問題、さらに政治と民主主義について正当にプロジェクトを続け、学んできたのでした。

 その学びの場を奪ってしまったのは、日本外務省であり、在ドイツ日本大使館です。反日感情が生まれて当然といわなければなりません。浅はかな日本的な見方しかできない日本外務省と在ドイツ日本大使館の対応を見ていると、どちらが大人なのか、どちらが過去から正当に学んでいるのかと疑いたくなります。

 この問題では、ベルリンの地元メディアが逐次報道しているほか、ぼくの区議会に対する質問とその回答をネット上で読んだというロスアンジェルスタイムズの記者が、ぼくにコンタクトしてきました。記者は、戦後の政治教育がしっかりしているはずのドイツにおいて、ドイツの政治家が日本側の説明を鵜呑みにして平和の少女像を撤去させようとしているのは信じられないといっていました。この問題に関するロスアンジェルスタイムズの記事は、以下にリンクを入れてあります。

 日本外務省と在ドイツ日本大使館は平和の少女像を巡る対応によって、幼稚な日本の恥しい対応を世界に広めているだけだとしか思われません。ドイツで反日感情を生むようなことしかできない日本大使館なら単なる税金の無駄遣い。そんなものはなくてもいいと思います。

(2024年9月23日、まさお)

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関連サイト:
ベルリンでの平和少女像撤去問題について報道するロスアンジェルスタイムズの記事(How a memorial to WWII sex slaves ignited a battl in Berlin)

 

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