冷戦終結と右傾化 民主主義社会の誤解
ぼくは拙書『小さな革命 東ドイツ市民の体験 統一プロセスと戦後の二つの和解』(言叢社刊)において、「ベルリンの壁が崩壊してドイツが統一された。新鮮で生きのいい東ドイツの若者は、西ドイツの極右政党や極右組織がリクルートするターゲットとなる。・・・・東ドイツは、西ドイツ極右派を再生させるための「作戦地帯」となる。」と書きました(219ページ)。
それは、独裁制で民主主義の根付いていない東ドイツでは統一後、西ドイツの極右派が新しい活動の場を得て、東ドイツにおいて拡大していくだろうと予測していたからでした。西ドイツの植民地のように扱われる東ドイツ社会で生まれる大きな不満も、極右派の拡大を後押しするだろうと予想していました。
その予想は当たってしまいました。しかしぼくの予測は、東ドイツどころか、世界全体、特に民主主義国家とされる西側社会にも当てはまることになるとは、当時は想像もしていませんでした。
今から過去を振り返ってみると、東ドイツで予測していた極右派の台頭がいずれ西側社会に拡大していくのは、当然の成り行きだったのかもしれません。

作成するのは、政治教育センターの管轄と指導ではじめて投票権を得た若者の代表で構成されるボートマッチ作成グループだ。
写真は、2017年の連邦議会(下院)選挙前に、各政党の代表と懇談するボートマッチ作成グループの若者。若者たちはその時、メディアのインタビューも受けていた。
ドイツではこの取り組みは、政治教育、民主主義教育の一環で行われている
それはどうしてなのか?
西側社会は戦後、第二次世界大戦の教訓から民主主義と法治国家をベースとした価値観を共有していきます。それが、独裁制の旧ソ連の覇権に対抗する一つの重要な手段でした。しかし冷戦終結とともに、旧ソ連の覇権はなくなります。前回の記事「西側社会は冷戦に勝ったのか 冷戦終結の誤解」でも書きましたが、西側社会に冷戦で勝ったとの誤解が生まれます。
しかし西側社会が基盤とする民主主義や法治国家は、その価値観通り健全に機能していたでしょうか。ぼくはそうは思いません。
特定のエリートと巨大産業が特権を保持し、政治体制は民主主義の名目でエリートと経済界の特権を守るとともに、一般市民を冷戦の脅威を強調することで都合のいいように統制していたといわなければなりません。西側社会でも、プロパガンダが行われていたのです。
しかし冷戦の終結によって、それまで正当化してきた『言い訳』は通じなくなります。西側社会はそれに気づいて冷戦終結と同時に、それまで築いてきた価値観を維持するため、民主主義と法治国家がより健全に機能するように改革するとともに、社会に共通の価値観をもっと普及、深化させる努力をしなければならなかったのだと思います。
しかし西側社会は冷戦終結によって、既存の体制にあぐらをかいてしまったのです。同時に、冷戦終結で世界が急速にグローバル化するとともに、国内でも経済競争が激化します。
西側社会は早いテンポで変わっていきます。技術革新によってIT技術も早いテンポで普及し、産業界ばかりか一般市民の生活も変わっていきます。産業拠点が国外に移転して国内で失業者が増え、経済と社会、労働の変化についていけない市民が増えていきます。
その結果、社会に不満が蓄積していきます。しかし、既存の政治体制はその不満に対応しようとしません。それが、ポピュリズムを産む温床になったのです。ポピュリズムというと「右」という意識が強いと思います。しかし、ポピュリズムには右も左もありません。ポピュリズムが単純なレトリックで社会の不満層の支持を得ていきます。
その後ヨーロッパにおいてポピュリズムにたいへん大きなインパクトを与えたのが、2015年の難民問題でした。その時難民問題に乗じてポピュリズムにうまく乗り、社会の不満層を引きつけたのが、保守・右派であり、極右派だったのです。
ヨーロッパにおけるポピュリズムと右傾化は、ドイツにおいて他の欧州諸国よりも遅れて拡大したように見えます。しかし冷戦終結前から東ドイツで暮らしていたぼくには、ドイツ統一プロセスにおける旧東ドイツにおける右傾化は冷戦直後から、ヨーロッパ全体の右傾化をもっとラディカルにした縮図のように現れていたと見えます。
こうして見ると、ドイツでは統一直後から旧東ドイツにおいてポピュリズムと右傾化がはじまっていたのです。その波はすでに、旧西ドイツにも広がっています。
現在、SNSなどの普及で市民はより一層簡単にポピュリズムの影響を受けやすくなっています。ポピュリズムはネット上でたくさんのフェイク情報を拡散します。しかしそれをフェイクと判断すること自体、市民にはたいへん難しくなっています。市民は益々ポピュリズムのフェイク情報を真実だと受け取ります。
フェイクに対抗するには、ファクトチェックが必要です。しかしいかに正確にファクトチェックされていても、一旦信じられたフェイクを覆すのは簡単ではありません。フェイクは時間が経つにつれ、真実のようになっていきます。
それには、どう対抗すべきなのでしょうか。
今求められているのは、民主主義意識を育成、拡大していくことです。本来だと、冷戦終結後にこの問題の重要性を認識して、民主主義教育が行われてこなければならなかったのだと思います。冷戦終結直後から続いた過ちを繰り返すべきではありません。
民主主義には、それでいいということはありません。常に民主主義の状態を把握しながら、民主主義の意識をどんどん育成していかなければなりません。
それは、市民一人一人に課せられた課題でもあります。体制にだっこされて依存していてはなりません。
(2026年4月02日、まさお)
関連記事:
西側社会は冷戦に勝ったのか 冷戦終結の誤解
左翼に厳しく、極右に甘い
小さな革命 東ドイツ市民の体験 統一プロセスと戦後の二つの和解