地道な市民

ロボットは雇用を破壊するのか

 前回、デジタル化によってものづくりが変わっていくことについて書いた。

 これに関連していわれるのが、ロボットが導入されれば、労働者は不要になって失業者が増えるということだ。

 自動車の登場とともに、交通において馬が不要になった。自動車の出力を馬力で表すのは、交通に馬を使っていた名残だと思う。今、数100馬力の車がざらにある。車1台で馬数100頭分の力を有するのだから、時代は大きく変わってしまったのだ。

 ロボットが普及すると、人による労働も馬と同じように不要になってしまうのか。

 この問題は、産業において自動化が進むとともに、常に指摘されてきた。でも、自動化、さらにロボットの登場で、人の労働は本当に不要になるのだろうか。

 工業国から途上国に生産拠点が移転されても、途上国では生産の自動化は行われない。途上国では、安い労働力が酷使されるだけだ。

 ロボット化、デジタル化が進んでも、途上国で安い労働者を使ったほうが安ければ、この傾向は変わらないと思う。

 ロボット化もデジタル化も、コスト次第ということだ。

 工業国では、その結果労働者が失業する。でも、工業国で新しい労働が生まれているのも事実。ただ、新しい労働によってすべての失業者を受け入れることができるわけではない。それが、問題でもある。

 ドイツは今、「インダストリー4.0」という国家戦略によって、産業におけるすべてのプロセスをデジタル化することを進めている。それに伴い、工場の生産ラインで働く労働者の数は激減するはずだ。

 ただそれでも、新しい仕事が生まれてくるのも事実。ドイツ労働総同盟のホフマン委員長は、労働界はデジタル化をむしろ新しいチャンスだと思っているとした。デジタル化によって、新しい雇用が生まれるからだという。

 前回、ものづくりの改革によって労働が変わっていくことについて述べた。産業のデジタル化によっても、労働は変わる。

 労働とは何か、問い直すことも必要になると思う。

 すでにそうなっているが、ものづくりが人間のアイディアやコンセプトに大きく依存している。

 産業においてロボット化やデジタル化が進むと、労働による生産性について述べるのは、意味がなくなる。それは、ロボットによる生産をどうプログラミングするかだけの問題になるからだ。つまり、人間の頭如何ということになる。

 だからこそ、そこに人工知能(AI)が入ってくる余地がある。だがその問題については、後で述べることにする。

 労働が変わってくると、労働に課税するのを基盤とする現行の課税制度が機能しなくなる。それに対して政治が早く対応しないと、国家財政はいずれ破綻するだろう。

 デジタル化による産業の変化のほうが、政治の対応よりもはるかに早い。それが、今後より大きな問題となる。

 これは、デジタル化に伴う労働の変化にとっても重大な課題だ。政治と経済ができるだけ早く、デジタル化に伴う労働の問題を把握して施策を講じないと、たいへんなことに成りかねない。

 ただ、既得権益を守るだけの政治は、これまでいつも後手に回ってきた。

 こうして見ると、ロボットやデジタル化が失業者を拡大させるのではない。政治と経済の対応の遅れが問題なのだ。つまり、人間がいかに早く変化に対応できるかだ。

 人間の頭の問題だということでもある。

(2019年8月22日、まさお)

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