タロウの骨折

 タロウとハナコがまもなく2歳になる頃だった。夕方出張取材から帰ってくると、連れ合いの三枝子が今日はたいへんなことがあったという。

 午後、バルコニーでタロウが急にすごい声で「ギャー」といった。何事が起こったのかと見ると、バルコニーの外側の腰壁の上に置いてあった鉢が一つバルコミーに落ちていた。

 タロウは「ギャー」というと、すぐに慌ててソファーの下に逃げ込んだようだった。タロウに何が起こったのかわからない。鉢が落ちたのが、タロウの凄まじい反応と関係あったのだろうことは想像できた。

 タロウは呼んでも、なかなかソファの下から出てこなかった。タロウが出てくるのを待っているしかない。

 少し経ってタロウが出てきた。からだを触らせようとしない。右の後ろ脚を上げたまま、脚3本だけで歩いている。おかしい。三枝子は、タロウに何かあったのだと思った。すぐに獣医のところにいくしかないと思った。

 たいへんな思いをしてタロウをキャリアーに入れ、獣医のことろにいった。右の後ろ脚を怪我したことはわかった。でも、痛がってレントゲンを撮らせようとしない。仕方がないので、翌日もう一度レントゲン検査にきてほしいといわれる。

 三枝子の想像では、バルコニーの腰壁の上にあった鉢の上にあがっていた時、鉢と一緒に落ちてしまったのではないか。その時、後ろ脚が鉢の下敷きになったのではないかという。

 その夜、タロウの怪我した後ろ脚をさすってやろうとした。でもちょっと触るだけで、タロウは「ハー」といって攻撃的になる。静かにしておくしかない。

 翌日、再びタロウを獣医のところに連れていった。タロウは痛さが少し和らいだのか、前脚を立てて腰を下ろし、座ることができた。右後ろ脚が少し横にでているようにも感じた。でも、ほとんどいつもと変わらない。

 その姿を見た獣医が、こうして座れるのだから多分骨折していない、レントゲンは必要ないだろうという。打撲で済んだのではないかと診断した。

 ホメオパシーの「アニーカ」を飲ませて、様子をみようといわれた。「アニーカ」のことは知っていた。ぼくたちも何か打ち身があったりすると、よく飲んでいた。打撲にはとても効果があると思っていた。

 それで、1週間後にもう一度様子を見ましょうといわれる。

 タロウはそれでも、なかなか怪我した脚を触らせようとしなかった。痛みがまだまだ続いているようだった。数日間はまだ、3本脚で歩いていた。それでも、何にでも飛び乗れた。次第に、怪我した脚も使えるようになる。

 でもぼくは、これは骨折だと思っていた。怪我した脚を触らせるようになったので、骨折の跡がないかと右後ろ脚を触診してみたりした。でもよくわからない。

 アニーカを飲ませながら1週間経った。獣医のところに行く日がきた。今度は、はっきりさせるために絶対にレントゲン撮影させようと思っていった。

 でも、このままのほうがタロウのためだろうとは思っていた。これで問題ないなら、わざわざメスを入れる必要はない。傷跡では、骨がくっつきはじめているはずだ。手術するには、それをまたわざわざ折らないといけないだろうと心配していた。

 タロウは、問題なくレントゲンを撮らせた。やはり、骨折していた。

 獣医は、自分のところでは手術できないので、すぐに動物専門の外科医のところにいってほしいという。ぼくたちは、タクシーで紹介された外科医のところにいった。

 外科医は、大きな犬の手術中だった。でもその合間を見て、獣医から渡されたCDに入っているレントゲン写真を見てくれた。

 外科医は、すぐに手術する必要はないといった。骨折後1週間も経っているので、折れた骨がそのままくっつきはじめている。手術するには、それを折らないといけないと説明した。

 自宅で飼っているネコだし、まだ若いので、そのままにしておいて問題ないといわれる。

 ぼくは、外科医のいう通りだと思った。外科医のアドバイスは、とても信頼できた。

 ぼくはこの時、最初に診察した獣医がヤブだったおかげで、むしろ救われたと思った。タロウがすぐにレントゲン撮影させ、骨折していることがわかったら、手術させるかどうかで、結構迷ったと思う。

 骨折してもすぐに手術して、金具を入れる必要はない。複雑な骨折でなければ、メスを入れるのはからだには酷だと思う。からだの治癒力で問題なく回復できるからだ。それは、ネコだけではなく、人間にもいえると思う。

 タロウは今、ちょっとだけ歩き方が不自然かなと思うこともたまにはある。でもそれ以外、何の不自由もなく、遊びまわっている。

 それでいいのだ。

2020年2月17日、まさお

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