銀行口座の委任状も忘れずに

自分らしく死ぬために

 全権を委任する代理人には、委任状が必要なのはすでに書いた。その委任状には通常、死後も有効と書いてある。それは委任状作成時に、確認しておいたほうがいい。

 しかし死後も有効な代理人への委任状があり、全権が委任されていても、代理人の権限には限界がある。

 代理人は、委任状を使って故人が結んでいたいろいろな契約(賃貸契約や保険の契約など)を解約できる。しかし、故人の残した遺産には手を出せない。遺産が少なく、口座にわずかな金額しか残っていなくても、代理人は残されたお金を使わないようにしたほうがいいと思う。

 それは、死亡日とともに残された遺産が相続人のものになるからだ。それを使うには、相続人が確定し、相続人からの委任状が必要になる。

 遺言書に相続人が誰か記載されていようが、法定相続になろうが、相続人は裁判所(正確には裁判所の遺産部、遺産裁判所(Nachlaßgericht)ともいう)が相続人証明書(Erbschein)を発行しない限り、相続人は確定されない。

 相続人証明書が発行されるまでには、故人の住んでいた自治体にもよるが、裁判所に相続人証明書の発行を申請してから数カ月から半年かかると思っていてほしい。相続人証明書がない限り、相続人は第三者の代理人に正式な委任状を出すこともできない。

 遺言書がある場合はまず、裁判所に遺言書開封申請もしなければならない。たとえ遺言書が正式に登録されておらず、手書きの遺言書を裁判所に提示する場合であっても、裁判所に手書きの遺言書を添えて遺言状開封申請を出す。

 遺言書のことについては別途、詳しく書く予定だ。

 相続人が複数になる場合、代理人は相続人すべてから委任状をもらっておく必要がある。

 こうした手続きを踏まないと、故人の遺産に手をつけるのは正式にはできず、犯罪行為と見なされる心配がある。だから、故人の銀行口座に残ったお金を使って葬儀もできない。ぼくが最初に代理をした友人の場合は銀行口座の委任状がなかったので、相続人となる日本の家族から前借りをして葬儀などいろいろな処分を済ませた。

 故人の銀行口座は原則、死後6カ月しか保持できないことも知っておいてほしい。

 こうした面倒を避けるため、全権を委任した代理人に銀行口座の委任状(Bankvollmacht)を出しておくことができる。銀行口座委任状は、口座を持っている銀行にいって手続きをする。その場合、代理人が同席して署名するほか、代理人の身分証明書(パスポート)と租税ID番号が必要になる。

 その場合に注意してほしいのは、銀行口座委任状を作成する時に、委任状が死後も有効にしておくことだ。ドイツ語では、それを「(gilt) über den Tod hinaus」という。その欄にチェックを入れてあれば(ここが大切!)、代理人は死後も故人の残したお金を使えるようになる。

 委任状手続きを済ませても、銀行は委任状のコピー(委任者控え)をくれない場合も多い。心配な場合は、コピーをもらっておくのも手だと思う。

 ぼくは代理人の立場からすれば、全権委任状と銀行口座委任状はセットで必要だと思っている。

ベルリン市内Sバーンの駅構内

 死後も有効な銀行口座委任状があれば、代理人は故人の口座を使って入金、出金、銀行振込、契約解除に伴う残金の返金、口座の解約ができるようになる。しかし故人の口座に関し、代理人は新しいサービス契約を締結することはできない。

 そのためたとえばオンラインバンキングのサービス手続きがされていないと、代理人はオンラインバンキングができない。銀行で振り込んだり、口座の残高を記帳してもらうために、毎回銀行の窓口にいくか、故人のキャッシュカードでATMを使わなければならなくなる。

 ドイツでは銀行の支店が減っているし、ATMが故障していることも多い。ぼくが代理人をした友人の場合、何回銀行に通ったことか。その手間はかなり面倒だ。そのため自分ではオンラインバンキングをしなくても、死後に代理をしてもらうことを考え、事前にオンラインバンキングが可能となる手続きをしておいてほしい。

 銀行口座委任状がないとすでに述べたが、故人の銀行口座にあるお金には手をつけないほうがいい。口座解約には、相続人証明書と相続人からの委任状が必要になる。それもない場合は、銀行は解約に際し、解約してもいいとの税務署の証明書(Negativbescheinigung)を要求してくる可能性がある。

 そうなると、故人のお金に関わることなので結構面倒なことになる。

 銀行口座の委任状は代理人がいなくても、家族(たとえば連れ合いないし自分のこども)に出しておくことを勧める。そのほうが、家族も死後に故人の口座の管理、利用する手続きをしなくてもいい。

2024年1月09日、まさお

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関連サイト:
国民銀行の銀行口座委任状に関する説明(ドイツ語)

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