緩和ケア病棟か、在宅ケアか

 日本では地方にいけば、家族には自宅で看取りたいという希望が多いと思う。その意味で、緩和ケア病棟が、病院でのケアから在宅ケアに移行するための橋渡しをするのは悪いことではない。ただ患者にはそれぞれ希望があるし、家庭の状況も異なる。

 その点で、一概に在宅で緩和ケアするほうが好まれるとか、需要があると断定するのはよくない。緩和ケアは、患者のあらゆる状況に合わせて柔軟に対応できるものでなければならない。

 ぼくの母の場合、緩和ケア病棟に入院して1カ月を過ぎると、在宅への移行に対するプレッシャーがやたら強くなったと感じた。

 やはり、きたかと思った。それはなぜか。

 母の場合は、患者負担は1割。その場合、緩和ケア病棟の入院1日当たりの基本料金が、最初の30日間とその後で、500円余りの差がある。最初の30日を過ぎると、入院料金が安くなる。1カ月では、1万5000円安くなる。これはあくまでも入院基本料金なので、これで入院に関わる負担の全額ではないので、注意されたい。

 ということは、病院に入るお金は患者1人当たり1カ月間で15万円の減収となる。緩和ケア病棟には20室あるので、緩和ケア病棟において長期入院患者ばかりになると、病院にとっては1カ月当たり最高300万円まで減収を見込まければならない。

 この額は、地方の公立病院にとってはバカにならないと思う。

 この料金体制を見た時、なぜ外出や外泊を退院とみなし、戻ってくると再入院扱いにするのか、その事情がわかった。再入院となれば、入院日数は最初から換算し直すことになるからだ。

 ああそれなら、母の入院日数が1カ月を超えると、在宅に向けた病院側の態度がより強いものになるだろうと、予想していた。案の定、現実にその通りとなった。

 『冥土にいくのも金次第』なのだ。

病院でも面会禁止の張り紙があちこちに張られていた

 入院料金制度自体は、緩和ケア病棟での滞在が長くなれば、患者家族の負担を少しでも減らそうという思いなのだと思う。長期入院となれば、それによって入院料金が軽減される。悪いいい方をすれば、長期に入院すると、その制度が『悪用』される危険もある。現実にはそうなので、末期ガンで生死を彷徨う時に、何と情けない話なのかと思ってしまう。だが病院の経営が成り立つようにするには、致し方ないのか。

 母は入院が1カ月を超えても、在宅は不安といい続けていた。そのため、病院側には母が不安に思っているのでといって、在宅への切り替えを引き延ばすことができた。ただ主治医には、母の容態がたいへん安定しているので、在宅に切り替える準備をはじめるため、自宅で自分の力でトイレにいけるようにリハビリをしっかりやってほしいと要望していた。

 母は結局、約2カ月緩和ケア病棟に入院して退院。在宅療養に切り替えることになる。

 それは、母の容態がとても安定していて、母が元気だったこと、コロナ感染者が激増して、緩和ケア病棟でも面会が厳しく制限され出したこと、さらに母が長い入院にうんざりしてきたからだった。

 ちょうどいい時期に、母の気持ちが変わってくれたともいえる。それですぐに、在宅にすることで話を進めた。

2023年1月16日、まさお

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関連サイト:
緩和ケア病棟とは|メディカルノート

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