代理人にお礼は必要か

自分らしく死ぬために

 これまで直前に、「死んだ時、お金はどれくらい必要か?」と「自分の持ち物はどれくらい価値があるか?」の記事を2本書いた。

 ただ死んだ時にかかる費用も、死後にどれくらいお金が残るかも、実は代理人次第である。代理人が費用をどれだけ節約し、残ったものをいかにお金にするかを、代理人に委任することになる。それが、自分の遺産がどれくらいになるかを決めるといってもいい。

 代理人が生前と死後に請け負うことは、「代理人が必要」の記事の最後にまとめてある。それを見てもらうとわかるが、代理人が処理しなければならないのは多様で、たくさんある。

 葬儀は、日本では葬儀屋がすべて準備して進行もしてくれる。しかしこちらでは、式次第などすべてを代理人が企画し、進行も自分でするか、お金を払って第三者にお願いしなければならない。葬儀屋はそれらを、サポートしてくれるにすぎない。

樹木葬の場に向かう参列者たち

 ドイツ人でさえ、死後の後始末は「とてもたいへん」という。家族であれば時間をかけて後片付けできるが、代理人はそうもいかない。住居を返却するまでに、ほとんどすべてのことを片付けておかなければならない。

 その上、住居の光熱費の精算と所得税申告は死後翌年にならないとできない。生前に介護が必要な場合は、その手続きのほか、日常の世話なども請け負わなければならなくなる。

 日本のようなケアマネージャー制度は、ドイツにはない。代理人が自分で調べたり、聞いたりしないと、どういう介護サービスを受けることができるのかもわからない。わかっても、代理人が手続きをしなければならない。

 いろいろな点でドイツは、至れり尽くせりの日本とはまったく違う。日本とドイツとの間にはたいへん大きな差がある。

 もう一つたいへんなのは、ドイツ社会の官僚主義的なところと、冷淡さだ。これには、ドイツ人でさえも辟易としている。外国人にはもっと、たいへんな負担だ。ぼくは、代理人として後片付けをした毎に、人間不信に陥った。

 何度連絡しても、相手方は動かない。同じところに何度手紙を書いたり、電話したかわからない。でもまあ、これがドイツ社会の日常でもある。外国人だからということではない。結局代理人には、最低でも数ヶ月に渡ってほぼフルタイムジョブに近い負担がかかると思っておいてもらいたい。精神的にもかなりきつい。

 その負担を、代理人に友情からボランティアでやってもらうのか、それとも代理人にお礼するのか。

 それは、個人で判断してもらうしかない。相場はない。自分にどれくらいのお金が残るのか。事情によっては、代理人に無報酬でやってもらうしかないこともある。

 しかしこの問題は、自分で生前に代理人と直接話し合って合意しておくべきだ。合意の内容は書いて残しておく。日本に残された親族には、ドイツの状況と故人の遺産がわからないので判断のしようがない。

 ぼくが代理人として後片付けをした友人の場合、この問題について事前に話し合うことなく、ぼくが引き受けてしまった。しかしこの問題はぜひ(!)、生前中に代理人と話し合って事前に決めておいてもらいたい。

 ぼくの亡くなったドイツ人の友人には、死後に残ったお金をすべて後片付けをしてもらう代理人に相続してもらうと生前に決めていた者がいる。一人はもう遠い親戚しかいないから、後を任せる代理人の友人にもらってもらうと決めていた。ドイツに暮らしている兄弟がいるのに、自分の面倒をみてもらうわけでもないのでと、自分の持っている分譲マンションまで代理人に相続してもらった友人さえもいた。

 一人の人間が生きてきたことには、大きな価値がある。その証を片付けるのも、とても重要な使命だ。しかし亡くなったら、自分ではもう何もできない。誰かに肩代わりして、後片付けしてもらうしかない。

 ぼくはそう思って、代理人を引き受けてきた。ただ残った自分の遺産のすべてを代理人に譲っていったドイツ人友人のことを見ると、確かにそれも一理あるなあと思う。

 しかし、人それぞれには事情がある。ぼくがこうあるべきだ、といえる問題ではない。ただお礼するかどうかは生きている間に必ず、自分が委託する代理人と話し合って決めておいてほしい。

 それが、自分らしく死ぬことにもなる。日本に残された親族のためにもなる。

2024年5月09日、まさお

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