風力発電の危機は、それだけの問題ではない
これまで、風力発電の抱える問題をいろいろ指摘してきました。
特に深刻なのは、風力発電施設の建設がまったく進まなくなったことです。今年2019年の風力発電施設の新設は、発電出力量で見ると、前年比で90%近くも下がり、激減しています。
ドイツ風力発電産業の大手の一つエナーコン社も今年2019年11月に入り、雇用を最高3000人削減すると発表しました。同社は現在、世界全体で1万8000人の雇用を保持しています。
業界団体によると、風力発電産業では2016年の段階で16万人が働いていました。しかし2017年以降、これまでに約3万5000人が解雇されてきました。
風力発電産業に危機的な状況をもたらしている原因として、ドイツでは以下が挙げられています。
+野鳥や景観への影響から、風力発電に対して住民の反発が強くなっている
+固定価格買取制度(FIT制度)に入札制が導入され、年間の増設量が制限されるほか、発電された電気の買取価格が大幅に下がって、風力発電に投資する魅力が失われた
+住宅から最低1キロメートル離れた場所でないと風力発電施設を設置してはならないなど、規制が厳しくなっている
ただぼくは、風力発電産業の状況には再生可能エネルギーで発電することの基本的な問題が現れていると思っています。
それは、再生可能エネルギーでは燃料費などの限界費用が発生しないことです。特に風力発電と太陽光発電において、その問題が顕著になります。
この限界費用のないことが、卸市場において再エネで発電された電気の取引価格が大幅に下がってきた一番の要因です。
再エネにおいては、再エネによる発電量の割合が増えるとともに、発電ノウハウが蓄積され、学習効果が出てきました。それに伴い、発電コストがより安くなっています。
ただその結果、卸市場での電気の取引価格が下がりすぎると、発電施設に投資して建設するだけの魅力が失われます。
というのは、発電施設に投資しても、電気の取引価格が安すぎると、投資を回収して利益を上げることができるかどうかわからなくなるからです。それでは、投資したいという気持が起こりません。
再エネによる発電では、限界費用がないのは一つの大きな魅力です。しかし同時に、電気の取引価格が下がって投資する魅力が失われていく危険も大きいのです。
ぼくは現在、この問題が風力発電に出てきていると思います。
自宅の屋根に設置されるソーラーパネルでは、自家発自家消費が進んでいきます。だから、この問題は感じません。
それに対して、風力発電とメガソーラーは、個人投資では不可能です。この分野では、電気の取引価格が下がりすぎると、消費者にはよくても、投資する魅力を刺激しません。
これは、限界費用の発生しない再エネによる発電では、避けて通ることのできない問題です。
この問題に対応するには、発電された電気によって利益を得て資金回収するだけではなく、発電施設を建設する投資資金を集めるためのメカニズムも必要になります。
たとえばドイツでは、その一つの可能性として、いずれ再エネに特化した容量市場を設置し、そこで投資資金を集めることも必要になると考えられています。
2019年11月17日、まさお
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