エネルギー選択宣言ブログ

再エネと気候保護

 気候変動に対応するためには、再生可能エネルギーを拡大することも大切です。二酸化炭素など温室効果ガスの排出を減らすとともに、再生可能エネルギーの利用を増やします。

 しかし、再エネの拡大と温室効果ガスの排出削減が同時に行われているようで、実際にはその両輪がうまく噛み合っていないのが実情です。

 その要因は、二酸化炭素の排出枠を定め、それ以上に二酸化炭素を排出することに課金するために排出枠以上に排出する権利を売買する排出権取引にあります。排出権取引は、京都議定書において規定された一つの施策です(京都メカニズム)。

 ヨーロッパでは、EUがそれを導入して二酸化炭素の排出を削減しようとしています。

 排出権取引がどう機能しているのか、まずごく簡単に説明してみます。

 各国がまず、年間排出する二酸化炭素の排出量(排出枠)を規定します。排出量を毎年削減して二酸化炭素の排出削減目標を達成できるように、排出枠を設定します。その排出枠を、二酸化炭素を排出する産業分野毎に分配します。

 ここでは、過去の二酸化炭素排出量を考慮して、各分野で平等に二酸化炭素の排出を削減できるようにします。同じように、二酸化炭素の排出枠をさらに各企業に分配します。

 これで、企業が1年間に排出できる二酸化炭素の排出量(排出枠)が規定されます。

 ある企業が割り振られた二酸化炭素の排出枠を下回った場合、その下回る分の排出量を排出するだけの権利を証明する証書を発行して、それを売ることができるようにします。

 ある企業で二酸化炭素の排出枠を上回った場合、その企業は上回った分の排出量に対して、排出枠を下回った企業や国から下回った分の排出権を証明する証書を購入して、上回った排出量を埋め合わせます。

 こうして二酸化炭素の排出権を取引しなかがら、二酸化炭素の排出を全体で削減します。これが、排出権取引といわれるものです。

 排出権取引とは、規定された排出枠を超える二酸化炭素の排出に課金することで、それがコスト負担にならないように二酸化炭素の排出を削減することを促すインセンティブ政策だといえます。

 排出権は自国内で取引するばかりでなく、国外から排出権を購入することも、国外へ売ることもできます。

 たとえば、アフリカで風力発電施設が設置された場合、それによって二酸化炭素の排出が削減されます。その削減される二酸化炭素の排出量を証明する排出権証書を購入して、自社に割り当てられた排出枠の帳尻を合わせます。

 ここで問題になるのが、二酸化炭素に対する課金額です。

 二酸化炭素の価格が高ければ高いほど排出権を買うとコスト負担になるので、二酸化炭素の排出を抑えようと努力します。削減効果が生まれるということです。

 でも二酸化炭素を排出する権利が高くないと、この程度のコスト負担なら、二酸化炭素をたくさん排出して排出権を購入してもコスト負担にならないので問題ないやということになります。それでは、排出の削減効果は生まれません。

 二酸化炭素への課金額は、市場原理で決まります。

 排出権を取引する市場において売りに出される排出権証書が多ければ多いほど買い手市場になって、二酸化炭素の価格が下がります。逆に排出権を取引する証書が少ないと、売り手市場になって二酸化炭素の価格が上がります。

 ここで、排出権取引と再エネの関係が問題になります。

 ドイツでは通常、国内の再エネには二酸化炭素の排出権は与えられません。二酸化炭素の排出がゼロだと想定されています。ですから、いくら再エネを増やしても排出権を認める証書は発行できません。それに対して、国外で再エネの発電施設を設置すると、そのプロジェクトからは排出権を認める証書を買うことができます。

 ということは、国外で再エネが増えれば増えるほど、それだけ二酸化炭素の排出を認める証書が増えるので、二酸化炭素の価格が下がります。さらに発展途上国で再エネ施設を設置するほうがコスト安なので、発展途上国から排出権を認める証書を買ったほうが、それだけコスト負担を軽減できます。

 その結果、自国では二酸化炭素の排出を削減する努力をしなくなります。

 国内では、再エネに排出権を求める証書を発行することは認められていません。でも再エネによる発電の割合が増えることで、国内全体の二酸化炭素排出量が減ります。その分は、国内全体の二酸化炭素排出の削減効果として見られるので、国全体においてはその他の分野で排出される二酸化炭素の量(排出枠)を減らす効果をもたらしません。

 つまり、再エネが増えれば増えるほど、再エネと関係のない他の分野において二酸化炭素の排出を減らす努力をしなくてもよくなるという状況が生まれます。同時に、排出権取引市場において二酸化炭素の価格が安止まりしてしまいます。

 再エネを増やすと同時に、二酸化炭素の排出も減らすというのが、本来の目的でした。しかし排出権取引のシステムでは、それがうまく機能していません。

 この問題は、前々から指摘されてきました。でも、改善されないままになっています。

 排出権取引というのは、二酸化炭素の排出削減を産業界で行うためにはじまったといっていいと思います。ただ現在、一般市民の生活に関わる民生部門において、二酸化炭素を削減することが急務になっています。

 そのためには、たとえば民生部門を含め、二酸化炭素を排出するすべての分野において炭素税を課税することが考えられます。ただその場合、一般市民、特に低所得者に大きな影響が出るようであってはなりません。エネルギーのためのコスト負担が大きくなって、低所得者が生活に困るようになっては、市民の反発を生むだけです。

 自動車や飛行機から排出される二酸化炭素を排出権取引の対象に組み込むのは、不可能ではありません。でもそれに伴い、そのための処理管理コストが余計にかかってしまう危険もあります。

 ただいずれにせよ、一般市民も二酸化炭素の排出に対して負担を負わなければなりません。それによって、民生部門においても二酸化炭素の排出を削減しなければなりません。

 そのためには、二酸化炭素排出に対する負担が生活の負担にならないように、その負担を他で還元する方法を考えます。

 たとえばその一つの方法として、排出される二酸化炭素に課税して得られる税収を、再エネを普及するためのFIT制度の負担を軽減するために使うことが考えられます。それによって、電気料金が下がります。

 ただここでは、これまでのように再エネの拡大が二酸化炭素の削減を緩めるようであってはなりません。

2019年12月29日、まさお

関連記事:
過去最大の環境デモ
独政府、気候保護法の基本内容を閣議決定

この記事をシェア、ブックマークする

 Leave a Comment

All input areas are required. Your e-mail address will not be made public.

Please check the contents before sending.