水素戦略への条件

 ドイツ政府はエネルギー転換に向け、水素の技術開発と産業化を促進するための水素戦略を閣議決定しました。

 「グリーン水素」を前提にするとして、水素の製造を再生可能エネルギーによって行うことを条件にしています。

 それには、一つ大きな課題があります。それは、グリーン水素の製造によって再生エネで発電された電気の供給不足を招いてはならないということです。水素を製造するには、たくさんの電気を使います。水素は主に、中学生の時に習った電気分解によって製造されます。

 電気をたくさん使うとは、実際にはどういう意味なのでしょうか。

 電気の電気エネルギーがそのまますべて、水素の化学エネルギーに転換されるわけではないということです。たくさんのエネルギーが、必要とされる化学エネルギー以外のエネルギーに転換されてしまいます。

 水素は、主に燃料として熱エネルギーや電気エネルギーなどに転換されます。水素を使う時も、水素の化学エネルギーがそのまますべて目的となる他のエネルギーに転換されるわけではありません。

 ということは、電気で水素を製造して水素を使うのはエネルギー転換から見ると、それほど効率のいいものではありません。それは、電気によって水素という燃料を製造する中間プロセスが入るからです。

 再生可能エネルギーで発電された電気は、中間プロセスを入れないで電気としてそのまま使ったほうが効率がいいのです。電気を電気として最終消費するということです。ですから、自動車は電気自動車のほうが、水素を燃料とする燃料電池車よりも効率がいいのです。だからドイツは、自家用車では電気自動車を優先させます。

路線バスに水素を入れる。ドイツでは、水素を使うのは、大型車だけになる見込み

 その意味からすると、日本が国家戦略として水素と燃料電池車を組み合わせていますが、とても非効率な戦略だといわなければなりません。

 電気は、電気として使う。それが原則です。だから水素は、再生可能エネルギーで発電された電気の余剰電力を使って製造するのを原則としなければなりません。再エネによる発電では発電量の変動が大きいだけに、それによって水素が電気を貯蔵する役割を果たします。

 それではじめて、再エネで水素をつくることの意義が生まれます。

 ということは、水素の製造は国内でを原則としなければなりません。そうしない限り、再エネの余剰電力で水素を製造するという原則は実現できません。

 水素の需要が多くて、国内で製造するだけでの水素では足りなることも考えられます。でも国内製造で水素の需要をカバーできない場合に限り、国外で製造された水素を輸入します。その場合も、グリーン水素であることを大前提するほか、国内で水素の需要を極力少なくする努力が行われなければなりません。

 日本の水素戦略では、モンゴルなど国外において火力発電で発電された電気によって水素を大量に製造することも考えられています。でもそれは、邪道の邪道です。

 輸入水素の依存度が高まると、国際情勢に影響されやすくなります。水素の取り合いによる国際競争を激化させる心配も出てきます。それでは、世界平和に貢献しません。

 たとえば製鉄や化学などで脱化石燃料を実現するには、燃料として水素が必要になります。その意味で、水素は必要不可欠なものです。でも健全にエネルギー転換を実現するには、前述した条件で水素を利用することがとても大切です。

 国内においては、再エネで無限に発電できるわけではありません。再エネと水素をうまく組み合わせて、健全に再エネへのエネルギー転換を実現するには、

・再エネによる発電をさらに拡大させる
・電気の消費ができるだけ少なくなるように、省エネする

ことが必要です。

 これが、エネルギー転換において再エネと水素を両立させる唯一の手段だと思います。

2020年6月14日、まさお

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