グリーンか、ブルーか

 これまでベルリン@対話工房のサイトにおいて、水素を再生可能エネルギーで発電された電気を使って製造する水素戦略について報告してきました。それによって、製鉄など重工業をグリーン化することもできるようになります。

 再エネで水素を製造しても、製造プロセスにおいてどうしても炭素が必要となる分野もあります。たとえば、セメント産業などがそうだと思います。

 その場合、製造プロセスで排出される二酸化炭素を分離して、地層などに保管して二酸化炭素を大気に排出しないようにします。それを二酸化炭素回収駐留(CCS)技術といいます。

 ドイツは、2038年までに脱石炭することを決めました。CCS技術にできるだけ依存せず、再エネをベースとした産業に転換することを目指しています。ただどの国でも、そう進行しているわけではありません。

 再エネではなく、これまで通り石炭や石油など化石燃料に依存して、排出される二酸化炭素をCCS技術によって大気に排出しないようにすることも考えられています。それによって、植物が吸収できない以上に二酸化炭素を排出しない気候ニュートラルを達成することができるようになります。それを「ブルー化」するといいます。

ドイツ東部のシュヴァルツェプンペ石炭火力発電所横に設置されたCCSパイロット(実証)プラント。 二酸化炭素の貯留タンクがすぐにいっぱいになり、もう運転されていない。

 欧州連合(EU)は、2050年までに気候ニュートラル化することを目指しています。その中間段階として、2030年までに温室効果ガス(二酸化炭素など)を1990年比で55%削減することで審議する予定です。

 ただここでは、一つのことがはっきりと言明されていません。

 それは、ドイツが再エネによるグリーン化を目指しているのに対して、EUでは前述したブルー化を容認するということです。これは、東欧諸国では依然として石炭依存度が高い上に、再エネが普及していないからです。

 そのため、ブルー化を容認しない限り、ヨーロッパにおいて2050年までに気候ニュートラルを実現することができない可能性も高いのです。東欧諸国が気候ニュートラル化に同意しないことも予想されます。

 さらにもう一つは、気候ニュートラルを原発なしに実現するかどうかです。それについてもEUははっきりした立場を表明せず、むしろ原発を容認する立場です。フランスなど原発依存度の高い国は、今のところ原発なしに気候ニュートラルを実現することができません。

 ただドイツ以外で脱石炭と脱原発を確定していないヨーロッパにおいて、ブルー化と原発を容認すると、誰も脱石炭や脱原発に対して意欲を持ちません。経済界は、これまで通りでいいと思ってしまいます。

 これまでの通りにやってCCS技術だけを導入して気候ニュートラルを実現できれば、いいのではないかということになります。そのほうが、安く上がります。それでは、将来の持続可能な社会に向けて構造改革が進みません。

 さらに、もう一つ問題があります。

 CCS技術において、二酸化炭素を永久に、かつ安全に貯留することができるのかどうかです。また、それだけたくさんの二酸化炭素をどこに貯留するのかも問題です。そんなスペースはどこにあるのでしょか。

 CCSを巡っては、技術の導入ばかりが先行していると思います。二酸化炭素の貯留問題が棚上げされています。これは、原発問題で最終処分を棚上げしてきたのと同じです。

 CCSで同じことを繰り返してはなりません。

 「気候ニュートラル」ということばだけに惑わされてはなりません。それでは目先しか見ていないことになります。実質を見極め、それを実現するためにどうすべきかを最後の最後まで考えて議論しなければなりません。

2020年9月27日、まさお

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