日独で建物の意義が違う

 ぼくは熱供給で省エネするために、建物の断熱効果を高める必要があると書きました。日本の建物で断熱補強するのがそう簡単ではないことはわかっています。しかしそれをやらないと、熱供給でカーボンニュートラルを実現するのはかなり難しいと思います。

 たとえば今ぼくがベルリンで暮らしている建物は、20世紀はじめに建てられました。築120年くらいになるはずです。戦争で一部破壊されたままになっていましたが、80年代にリフォームされ、今から7年くらい前に断熱補強工事が行われました。

 ぼくの日本の実家は、立て直して20年以上経ちます。その時日本の住宅では、耐久年数がせいぜい30年くらいでしか、設計されていないことがわかりました。鉄骨にすると、少し寿命が長くなります。しかし日本の家に、100年以上の寿命は考えられません。

 それは、問題だと思いました。

 日本では、一般の工務店にお願いすると、寿命の短い家しか建てられないこともわかりました。ただありがたいことに、環境設計を専門とする工務店があり、そこにお願いすれば、できるだけ寿命の長い木造の家にできることがわかりました。

 木の柱が一つ一つとても太いので、柱を運んできたトラックの運転手さんが、こんな太い柱はみたことがないといったそうです。

 基礎を高くして天井高の低い地下をつくるほか、最新の簡易耐震構造にもしました。外壁と内壁の間を空洞にして、空気を断熱材に使っています。その空洞の空気は換気装置で入れ換えることができるので、夏の暑い時は、早朝の気温の低い時に空洞の空気を入れ換えます。

 その時同時に、祖父母が暮らしていたとても古い家を取り壊すので、そこにあった木のむくの床材や壁材、あるいは欄間や階段の木製化粧部材などは、新しい家でリサイクルして使いました。

 前回の建物の断熱効果の記事を公開すると、FBの読者さんから、日本の建物は社会資本ではなく、消費財と見られているので、減価償却期間程度の寿命しか考えないというご指摘がありました。

 ぼくもそう思います。日本の実家を建て替える時、それを痛感させられました。ドイツでは建物は社会資本として、できるだけ長く使うものというのが社会に定着しています。

 それに対して日本では、家は消費財なのです。使っていずれ解体すればいい。家も使い捨てなのです。ただ家を捨てるのが簡単ではないので、日本では今、古い空き家が問題になっています。

ぼくの実家のある街には、こうした古い建物がまだあちこちで見ることができる

 そこには、質より量という考え方があるのだと思います。とにかくその時代時代のニーズに合わせたコンパクトな家をつくればいい。寿命は短くていいのです。工期を短くして、とにかくたくさん新しい家をつくる。古くなって使えなくなれば、空き家にしておけばいいのです。だから、家を十分に断熱しません。

 日本の家は昔、『うさぎ小屋」といわれました。それは、日本の家が小さいということを象徴したものでした。ただ実態は、家における生活の質も考えない、バラック建てに過ぎなかったのです。コンパクトに建てるので、構造的にも融通が効かない。リフォームしても、構造的には改造できません。

 そこでは、時代の流れとともに、家族構成やライフスタイルが変わることが配慮されていません。だから家族構成やライフスタイルが変わると、新しい家を建てなくてはなりません。

 地方都市にいくと、街の中心に空き家が目立ちます。それに対して郊外にいくと、新築のピカピカした家がやたら目立つ。それは、こうした背景があるからだと思います。でもその結果、街の中心は廃墟のようになって、人が集まりません。行き当たりばったりの都市開発の結果です。

 これは、戦後に核家族化した弊害でもあると思います。こどもが大人になって、家を出て行くまでの家で十分なのです。ぼくの祖父母の暮らしていた古い家は、100年くらいの古いものでした。土蔵もありました。でも国土整備による強制立ち退きで、取り壊すことになってしまいました。それだから余計、そこで使われていた古いものを新しい家でリユースする意味もあったのです。

 消費財でしかない家のために断熱補強する意味があるのだろうかと疑問に思います。消費財の家に、誰も余分なお金をかけて断熱しないと思います。

 それでも断熱性能を上げないと、熱供給においてカーボンニュートラルは実現できません。それを意識してもらうには、政府が余程手厚い補助によってインセンティブ政策を講じるしかないと思います。それによって、家の付加価値が上がり、寿命も長くなれば、それに越したことがありません。同時に、中古住宅市場ができるのではないかとも思います。

 それは、家を消費財から社会資本に転換させる一つのプロセスになるかもしれません。

2021年10月24日、まさお

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関連サイト:
日本エネルギーパス協会

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