天然ガスは持続可能か

 欧州委員会は昨年2021年年末、原子力発電と天然ガスを持続可能だとして、タクソノミー・リストに入れるとの提案を各加盟国に通達しました。

 タクソノミーとは、「分類学」という意味です。欧州連合(EU)はグリーン・ディール政策の枠内で、2050年までに二酸化炭素の排出を実質ゼロとするカーボンニュートラルを実現することを目標にしています。持続可能な技術や活動への投資を誘導するため、タクソノミー・リストは持続可能と認める統一基準と対象を規定します。「グリーンリスト」ともいえます。

 加盟国はその後、欧州委の提案にコメントを出すことができます。ただ原子力と天然ガスは「持続可能」と、ラベルが貼られるのは間違いないと見られます。

 原発が持続可能かについてはすでに、「脱原発」の項でコメントしています(「欧州委、原発を持続可能と分類」の記事)。ここでは、天然ガスを「持続可能」とすることにコメントしたいと思います。

 天然ガスは化石燃料です。その点において、天然ガスを「持続可能」とするわけにはいきません。かといって、天然ガスを石炭と同等に扱い、気候変動を引き起こす罪悪なエネルギー源とするのには反対します。

 それは、天然ガスがエネルギー供給を再生可能エネルギーだけで実現するまでに、なくてはならないエネルギー源だからです。天然ガスは二酸化炭素を排出するからと、すぐに利用を止め、その分を再エネに投資するべきだというわけにはいきません。

 天然ガスは、再エネ100%となるまでに橋渡しとして過渡的に必要不可欠なエネルギー源です。それは、なぜでしょうか。

 エネルギーを安定供給することに、誰も依存はないと思います。でもどういう方法で安定供給が維持されているかについては、よく知られていません。それに加え、再エネで発電すると発電電力量に変動あるので、それにも対応してエネルギーを安定的に供給しなければなりません。

 ただ単に、発電して十分に電気さえあればいいというわけではありません。電気の需要はいつも一定ではなく、その都度必要とされる需要量が異なります。それに合わせて、電気を発電して供給しなければなりません。送電系統では、需要と供給のバランスが崩れると、ブラックアウトになる危険もあります。

 そのため発電する側に、いつ何時でも素早く需要を満たすことができるように反応できる発電方法が必要です。それを専門的には、「調整力」といいます。

 それに最も適しているのが、現在の技術段階ではガス発電なのです。ですから、再エネ100%化を実現するにしても、ガス発電は必要です。あるいは需要に素早く反応できる蓄電技術が必要になります。

 そうなると、天然ガスはいつまで経っても必要なのでしょうか。再エネでは、生物資源を発酵させてバイオガスを回収し、それでガス発電を行い、その排熱を暖房用の熱源として使います。

 すでに農業において、トウモロコシの草や茎、家畜の糞を使ってバイオガス発電が行われています。それについては、ベルリン@対話工房のサイトで何回も書いています。都市においては、残飯などを回収してそれを発酵させ、バイオガス発電を行うことができます。下水処理場でメタンガスを回収して、ガス発電を行うこともできます。

 ぼくは、ドイツ北東部のシュヴェリン市においてその都市電力公社(シュタット・ヴェルケ)が周辺の農家と契約して、農業から排出される生物資源を受け入れ、それでバイオガス発電を調整力として使っているのを見たことがあります。

ドイツ北東部シュヴェリン市の都市電力公社(シュタット・ヴェルケ)のバイオガス発電施設。農業から排出される生物資源と家畜の糞を入れて発酵させ、丸いドームにバイオガスが溜まる

 将来、蓄電池を使った蓄電システムが構築されれば、それも調整力として柔軟に使えるようになります。ただ蓄電池をそう使えるようにするのは、まだまだ時間がかかります。バイオガス発電の発電容量もこれから、より一層拡大していかなければなりません。

 しかしエネルギーを安定供給するには、そうなるのを待っているわけにはいきません。ガス発電の需要はいつでもあります。再エネを使って十分な調整力を確保できるようになるまで、天然ガスを使ったガス発電を調整力としてキープして、電力需要に素早く対応できる体制を維持していかなければなりません。さらに天然ガスは、暖房や給湯、調理などの熱源としてまだ必要とされます。

 ドイツは天然ガス発電所を戦略的予備力としてキープしておく体制も整備しました。現時点で、天然ガスなしに再エネへのエネルギー転換を実現するのは不可能です。

 その点で欧州委が、天然ガスを再エネへの過渡的な橋渡し技術として必要だとしているのは、間違いありません。

 問題は、それでも「持続可能」かということです。ぼくには、天然ガスを再エネ化に向けた過渡的なものとして、そのための前提条件を規定しておきながら、タクソノミー・リスト(「グリーンリスト」)にまで入れる意図がよくわかりません。

 欧州委の案では、天然ガスを持続可能とするのは2030年までとされ、ガス発電所を新設する場合、石炭火力発電所などの代わりであるほか、天然ガスでしかその時点でエネルギー供給できないことも証明しなければなりません。

 そうした厳しい制限があって、一体誰が「持続可能」だからと、天然ガスに投資するでしょうか。ぼくにはとても疑問です。

 欧州委の案は、民間投資を誘致するのではなく、各国において天然ガスプロジェクトに対して公的補助しやすいように、過渡的に「持続可能」のラベルを貼るだけなのかなとも思えてなりません。

 ぼくには、天然ガスを「持続可能」としようが、しまいが、天然ガスを利用することに大きな違いは起こらないと思います。むしろ天然ガスを「持続可能」とすることで、実際に持続可能な再エネなどの価値を低下させるだけと思います。

2022年1月23日、まさお

関連記事:
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関連サイト:
EUのタクソノミーに関する説明ページ「EU taxonomy for sustainabel activities」(英語)

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