「成長の限界」から50年、地球はまだ救えるのか

 「成長の限界」ということばが登場して、50年になります。これは、民間ベースで設立された国際シンクタンク「ローマクラブ」が1972年に発表した報告書のタイトルです。

 ローマクラブは、環境、食糧、人口、資源、格差など全地球的に人類を脅かす根本的な問題に対応するため、イタリアのオリベッティ社のアウレリオ・ベッチェイらによって設立されました。元国家元首や外交官、経済人、自然・社会科学者らで構成されています。

 ベッチェイは、米国トランプ前大統領の「アメリカ・ファイースト」やヨーロッパにおける極右化などポピュリズムの台頭を予測し、一般大衆がポピュリズムに扇動されやすいことを心配していたといわれます。

 ローマクラブの報告書『成長の限界』は、「人口増加や環境汚染などの現在の傾向が続けば、100年以内に地球上の成長は限界に達する」と、警告しました。

 その基盤になっているのは、「人は幾何学級数的に増加するが、食糧は算術級数的にしか増加しない」というものです。この文章は、イギリスの古典派経済財学者トマス・ロバート・マルサスの概念に基づいています。

 人の場合、親、子、孫と代々続けてこどもを産んでいけますので、人口は「掛け算」式に増えます。それに対し食糧は、同じ土地でしか栽培されず、さらに年に1回しか生産できないので、食料は「足し算」式でしか増えないというのです。

 そう見ると、食糧生産は人口の増加に追いつけません。ただしマルサスは、伝統的な古い有機肥料をベースに考えていたので、化学肥料が登場して、マルサスのように心配する必要はないとする考えもあります。

 しかし現在、世界はすごい勢いで都市化し、人口も大幅に増えています。人類の欲望を満たすため、早いテンポで農地の開墾が進み、生産を拡大させています。地球はそれに耐え、生産能力を維持することができるのでしょうか。産業においても、過剰な生産活動によって気候変動が起こり、異常気象を引き起こしています。

 それで人類の生活は、よくなったでしょうか。貧富の差がより拡大し、社会は飽食社会と飢餓社会に分割されています。

 これらの問題を明らかにするとともに、人類はどうすべきかを提言したのが、エルンスト・ウルリヒ・フォン・ヴァイツゼッカーとアンダース・ワイクマンが編著者となり、2017年に発表されたレポート『Wir sind dran(ドイツ語版)』(日本語版翻訳タイトル『Come On! 目を覚そう! – 環境危機を迎えた「人新世」をどう生きるか?(明石書店)』)でした。

 これは、『成長の限界』から50年に向け、ローマクラブ35人の主要会員によって書かれたものでした。

2017年の『Wir sind dran』(左)と2022年の『EARTH FOR ALL』(右)

 実際に『成長の限界』から50年となった今年2022年には、現ローマクラブの共同会長サンドリン・ディクソン・デクレーヴらが共同で、地球を救うためのサバイバルガイドとして『EARTH FOR ALL』を発表しました。

 ここでは、貧困と不公平、不平等、食糧、エネルギーの5つの分野で大々的な改革を要求しています。

・貧困問題では、貧困国においてグリーンテクノロジーを促進するため、国際機関が貧困国を援助する、貧困国の負債を免除する、貧困国において再生可能エネルギーや蓄電技術などの新しい産業を育てて保護する

・不公平問題では、社会の上層10%の高所得者の所得を制限する、被雇用者を失業から保護する、市民基金を設置して経済利益を一般市民に分配する

・不平等問題では、すべての女性に教育の機会を設ける、企業の役職において男女平等を実現する、女性の年金を平等にする

・食糧問題では、食品の無駄使いを減らす、持続可能な農業を経済的に魅力あるものにする、健康な食生活に切り替える

・エネルギー問題では、化石燃料から再エネに切り替える、再エネとエネルギーの効率利用に莫大な投資を行う、電気の使える分野ではすべてをオール電化する、蓄電に大幅に投資する

 ローマクラブのレポートはこれまで、科学的にモデル計算することによって得られた結果をベースに作成されています。

 「成長の限界」から50年。ぼくたちは、これまでどの程度ローマクラブの提言を真剣に受け止めてきたでしょうか。もしその提言が少しでも実現されていたら、今の社会は変わっていたと思います。

 でも「もし」と仮定法でいっても、意味がありません。過去の失われた時間はもう、戻ってきません。重要なのは、今何をするかです。

 『EARTH FOR ALL』発表記者会見に行った時、サンドリン・ディクソン・デクレーヴらの著者が、「今すぐにはじめれば、まだ間に合う。今すぐに取り掛かることが大切だ」と、力強くいっていたのがとても印象的でした。

 地球を救うために、何ができるのか。ぼくたち一人一人が考えて行動しなければならないのだと思います。もう政治任せにするわけにはいきません。

2022年9月18日、まさお

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関連サイト:
ローマクラブの公式サイト(英語)

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