脱炭素社会を体験したかったけどなあ

 ぼくは生きてい間に、二酸化炭素の排出が実質ゼロとなるカーボンニュートラルの実現された脱炭素社会を体験したいと思っていました。

 日本にいては、とんでもないけどまず無理ですね。今の日本の政策では、脱炭素社会は実現できる見込みのないはかない夢だと思います。

 ぼくが今暮らしているドイツは、2045年までに脱炭素化することを目標にしています。再生可能エネルギーも積極的に拡大してきたので、まだまだやることは山ほどありますが、ドイツでこのまま生活すれば、脱炭素化された社会を体験できるのではないかと期待していました。

 しかし今はもう、それも諦めました。多分ぼくが生きている間にはドイツにおいても、脱炭素化は達成されないと思います。

 それは、政府の政策とか実際の気候変動に関するデータからそう思っているわけではありません。最近の社会の状況とドイツ市民の感情から、そう思うようになりました。特にロシアが2022年春にロシアがウクライナに侵攻して戦争状態になってから、ドイツ社会がとても保守的で、変化を求めなくなっていると感じるからです。

 ドイツは元々、変化を求めない保守的な社会です。それでも、技術革新や再エネへのエネルギー転換を受け入れ、それなりに変化してきました。

 また環境問題でも、環境保護を大前提とする緑の党が誕生して支持を得てきました。政府も政権交代しても、環境問題を改善するためにいろいろ取り組んできました。環境政策において、ドイツは日本のお手本のようになっています。

 発電における再エネの割合も次第に増え、現在50%くらいにまで達しています。気候変動問題でも、政府は発電と産業界を中心に規制を強化し、二酸化炭素など温室効果ガスの年間排出量は1990年比で、40%減となっています。

 問題はそこからです。

 政府はこれまで、一般市民の生活スタイルを変えないことを前提に施策を講じてきました。しかしこれからは、一般市民の生活にまでメスを入れない限り、気候保護の目標を年々達成しながら、脱炭素社会を実現するのは不可能です。

ベルリン市内の生活の一コマから。壁公園で撮影

 一般市民の生活では特に、車による移動と暖房、住宅の断熱性に改善が必要です。これは、一般市民の生活に大きな負担と変化をもたらします。市民生活がオール電化される必要があるからです。

 車はガソリン車、ディーゼル車から電気自動車に代わります。同時に、電気自動車では部品数が半減することから、自動車産業が大幅に構造改革され、失業者がたくさん出る可能性があります。

 車の価値も変わり、自家用車を所有せずに、シェアする市民が増えます。車はもう、ステータスシンボルではなくなります。さらに無人運転化で、車で移動している間にネットで情報を得たり、仕事ができるようになるなど、車そのものの意義、価値も変わります。

 暖房は、地域暖房熱源を使って地域全体で暖房するか、個人住宅ではヒートポンプによって、暖房と給湯することになります。さらに一般家庭の生活において省エネするため、住宅の断熱効果を上げなければならなくなります。

 こうした変化に対して、市民自身が投資しなければならなくなります。

 再エネへのエネルギー転換や気候保護の必要性は、ドイツ社会において自覚されています。しかし一般市民の生活にメスを入れると、市民自身がその負担を負わなければならなくなります。その結果、市民に拒否反応が生まれます。

 長期的にみれば、そのほうが負担減になります。しかし一般市民は、最初の負担の大きさにびっくりして反発します。

 市民は自分自身の金銭的な負担ばかりでなく、自分の生活環境が変わることにも反発します。風力発電を促進するため、風車をどんどん設置したほうがいいのは認識しています。しかしその風車が自分の自宅の近くに設置されるとなると、設置に反対します。

 政府がこうした市民生活の変化を伴う施策を講じると、社会で反発が起こります。政府は、独裁者扱いされるようになります。独裁体制下の計画経済かと批判も出ます。

 同じような動向が、経済界にも見られます。これからの投資は、環境技術を駆使して脱炭素化を目的に行わなければなりません。企業にはそうしない限り、将来性はありません。それを認識していても、経営者には目先の利益が重要なので、実際には環境のための投資を負担に思う企業も多いのです。その変化に対応できない企業はいずれ、取り残され、倒産します。その自覚がないのも、たいへん大きな問題です。

 ドイツ社会では、脱炭素化に向けた頭の切り替えと意識改革がまだまだ進んでいません。それが、こうした問題を引き起こしています。

 変化を促すため、補助金を出すなどインセンティブ政策も講じられています。補助制度を利用して新しいヒートポンプを購入すれば、長期的に見ると最終的に安上がりになります。電気自動車を購入する場合にも、長い間に渡って手厚い補助金が提供されていました。しかし補助金は、政府が期待するほどの効果をもたらしませんでした。

 企業や市民は、目先の負担しか見ていません。今、自分で負担しなければならないことに反発します。政府がインセンティブ政策として補助金を出すのにも、限界があるということです。

 もう一つ大きな問題は、政府が脱炭素化に向けて将来ビジョンを社会に提示していないことです。脱炭素社会とはどういう社会なのか、生活はどうなるのかなど、社会には将来の社会像がまだまったく見えません。

 脱炭素社会において、経済や市民が具体的にどういう利点を得ることができるのか。政府は経済と市民にそれをはっきり説明していく責任があります。そうしない限り、社会は脱炭素化する意義を納得せず、理解できません。単に地球温暖化を防止するだけでは、不十分だと思います。

 脱炭素化は、政治と経済、メイディ、市民の社会全体が意識改革をしない限り、実現できないということでもあると思います。それには、かなりの時間がかかります。

 ドイツは2045年までに、脱炭素化することを目指しています。それまでには、もう(!)22年しかありません。ドイツが社会の意識改革を怠ったこと、これまで市民生活にメスを入れてこなかったことのツケがここに来て、ドカーンときてしまいました。手をつけなければならない課題が、山積みになっています。

 ドイツは政府の政策だけではなく、社会全体が軌道修正しないと、脱炭素社会の目標は達成できないと思います。

 しかし今、ドイツにそれができるのか。ぼくはとても悲観的です。

2023年9月14日、まさお

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関連サイト:
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