欧州議会選挙で若者が投票した結果を読む

 ドイツでは2024年6月9日、5年に1回行われる欧州議会選挙がありました。ドイツでは今回から、欧州議会選挙において16歳から投票できるようになっています。

 前回2019年の選挙では、気候変動問題が大きなテーマでした。ちょうどその時は、若者たちにによる環境デモで立ち上がったフライデーズ・フォー・フューチャー運動が活発になった時期。メディアにおいても、気候変動問題がトップテーマでした。

 ドイツの緑の党は当時、得票率を約10%から20%に倍増させました。その原動力になったのは若者票で、18歳から24歳の若者の3分の1が緑の党に投票。緑の党は若者層では、第一党になりました。

 しかし2022年に、ロシアがウクライナに侵攻。ウクライナ戦争はまだ続いています。昨年2023年10月には、パレスチナの組織ハマスがイスラエルを攻撃して人質を拘束します。ハマスの拠点で、パレスチナ市民が綴じ込められているガザ地区にイスラエスが侵攻。罪のないたくさんのパレスチナ市民が犠牲になっています。

 ヨーロッパでは再び難民が流入し、難民の受け入れを拒否する極右政党がヨーロッパ各地で躍進しています。ドイツを含め、ヨーロッパの右傾化はかなり深刻な状況になっています。

 この情勢において、若者はどう投票するのか。選挙前から若者たちの動向が注目されていました。

 選挙の結果によると、16歳から24歳の若者のうち、17%が保守系政党に、16%が極右政党に投票しました。緑の党には、9%の若者しか投票しませんでした。2019年の選挙時に比べ、緑の党が得票した若者票は、得票率で前回の選挙から20%以上も減りました。

 この結果から見ると、若者たちは右傾化し、気候変動問題に関心を持たなくなってしまったのでしょうか。

 そうではないと思います。大学の町などを中心に徹底した環境政策を訴えている若者政党Voltは、選挙ごとに立候補者を出して地道を活動し、躍進しています。Voltには今回欧州議会選挙において、16歳から24歳の若者の8%が投票しています。環境問題を最重要テーマとした左翼党も、若者の6%から得票できました。

 こうして見ると若者は依然として、気候変動問題に関心をもっているといわなければなりません。しかし若者票が緑の党から離れ、気候変動問題に徹底して取り組もうとする小政党に分散されたのがわかります。

 政権政党となった緑の党が気候変動問題で妥協せざるを得ない立場になり、若者たちが緑の党に失望している様子が伺えます。政権政党として緑の党は、厳しい政策を講じようとしました。しかし一般市民から反発を受け、政権内においても自分たちの主張を政治的に押し通すことができない状況に陥っています。

 気候変動は待ってくれません。そのため徹底した気候変動政策を講じない限り、気候変動問題は大きくなるばかりです。近い将来、もう取り返しのつかない状況になることも考えられます。

 将来その影響をまともに受けるのは、若者たちです。しかし緑の党は若者たちの将来のために、徹底した環境保護政治を行うことができません。徹底すればするほど、現在の生活に影響が出て、より大きな負担を負わなければならない層が出てきます。

環境団体「最後の世代」は、道路や空港の滑降路などに座り込みをするなど過激な行動で交通の妨害して、政府に徹底した気候変動政策を求めている。ベルリン中央駅前で撮影

 たとえば、「最後の世代」という過激な環境団体があります。政府に対して徹底した気候変動政策を求め、道路にからだを接着剤で貼り付けて座り込みをし、道路交通を妨害しています。空港の滑走路などでも、こうした妨害活動をします。

 それによって車で通勤する人や、車で作業場に資材を運ばなければならない人、あるいは救急車までが動けない状況に陥っています。飛行機も飛べません。

 「最後の世代」は座り込み活動によって、一般市民に気候変動問題の大きさを意識してもらいたいといいます。しかしドライバーの一部は、座り込みをする人たちに罵声を浴びせたり、暴力までふるいます。一般市民の生活を妨害するのは逆効果で、一般市民からは反発を受けます。一般市民の環境意識に大きな変化が現れた気配もまったくありません。

 緑の党の支持層は元々、都会に住む有権者が多く、教育レベルの高い人たちが中心になっています。それに対し、地方の田舎に住む市民、教育レベルの高くない市民は、気候変動など環境問題にそれほど関心がありません。

 気候変動問題は、社会全体の生活に影響を与え、社会全体で対応しなければならない問題です。しかし社会の中に、それに関心を持たない層や反対する層があることも認識しなければなりません。

 ぼくたちは、民主主義の下で暮らしています。気候変動の問題に対しても、民主主義的に対応しなければなりません。民主主義は単に、過半数を取ればいいという問題ではありません。社会には、いろんな意見、考えがあります。その社会において、どのように社会の意見をまとめて政治をするかが民主主義の課題です。過半数を取れたからと政策を強制すれば、一種の独裁政治だと感じられてしまう危険もあります。

 この問題は民主主義において、避けることができません。そのため気候変動政策に反発する層も含め、社会全体として気候変動に関して啓蒙活動を行い、環境意識を社会の底辺にまで浸透させることがとても重要になっています。

 それには、時間がかかります。しかし気候変動は、待ってくれません。これは、民主主義におけるジレンマだともいえます。そのジレンマに対する不満から、若者たちが緑の党から離れていってしまったのだともいえます。

 欧州議会の選挙結果を数字だけで見ると、若者が右傾化してしまったようにしか見えません。確かに極右政党の選挙運動は、ソーシャルメディアによる運動を中心に若者をターゲットにしていました。それが、若者の投票に影響を与えたのも否定できません。

 しかし若者は、極右政党がどの問題に対しても具体的な政策を持っていないのを知っています。ただ現在目の前の生活において直面するインフレによる生活苦や、戦争と難民の問題が、若者たちに不安をもたらしているのも間違いありません。若者たちが安定を求めているとも読めます。

 選挙結果の数字を表面的に見て、右傾化うんぬんで議論していても何にもなりません。どうすれば、環境意識を社会の底辺にまで浸透させることができるのか。若者も含め、一人一人がしっかり考えて自分の生活において実行しないといけないのだと思います。

 緑の党は上目線で、政治的な改革を求めてきました。一般市民はどう見ているのか、下からどう変えるのかを考えてこなかったのも事実です。そのツケがここにきて、はっきり出てきたともいえると思います。

2024年6月19日、まさお

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関連サイト:
ドイツ緑の党公式サイト(ドイツ語)

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