さよなら減思力

民主主義と国会議事堂の意義について考える

 ぼくは、米国大統領選後の米国の状況から「民主主義を守る」という記事を昨年(2020年)11月末に書いたばかりです。その記事を書いたのは、民主主義が破壊されようとしているとの危機感があったからでした。

 トランプ大統領は事実を曲げ、嘘の発言を繰り返しています。それに扇動され、いずれ支持者が暴動を起こすのではないかと心配していました。

 案の定、トランプ大統領支持者は(2021年)1月6日、トランプ大統領に扇動されるような形で米国連邦議会議事堂に乱入しました。議事堂では、大統領選挙の結果を確定させるため、上下院合同会議が行われているところでした。

 この議事堂乱入事件をどうとらえるべきなのか。今回、それについて考えたいと思います。

 正直いうと、この乱入事件に対する日本の報道や政治の反応に関して、ぼくはドイツとたいへん大きな差を感じています。ドイツというよりは、民主主義国家となっている西側社会といったほうがいいかもしれません。

 それは、トランプ支持者による議事堂への乱入をどうとらえるべきかというよりは、議事堂そのものの意義をどう意識するかの違いのようにも思います。

 民主主義国家にとり、議事堂は民主主義の聖域のようなものです。その聖域に侵入して占拠するのは、民主主義への攻撃です。民主主義を破壊しようとする行為以外の何物でもありません。

 日本での反応には、そうした意識があまりないように感じます。日本で国会審議がないがしろにされ、十分に審議しないまま法案を通過させることがよくあるのも、国会が民主主義の中心であるとの認識がないからではないかと思えてなりません。

 今回の米国での議事堂乱入事件は、民主主義の危機を示すものだといってもいいと思います。一つに、事件を扇動した大統領が民主主義の手続きの下で選出されました。その大統領が民主主義を破壊しようとしているのです。それに同乗したのが、共和党でした。トランプ大統領による民主主義の破壊を4年間に渡って黙認してきた責任はかなり重いと思います。

 トランプ大統領の4年間の乱行を目撃しながらも、今回の大統領選において、米国の有権者はトランプ大統領に4年前以上の票を投票しています。今回の議事堂乱入事件に対しても、共和党支持者の43%が支持しています。

 ということは、政界ばかりではなく、米国社会においても民主主義に対する意識が麻痺しているといわなければなりません。これは、重大な問題です。

 ただ民主主義に対する麻痺状態は今、世界の至るところで起こっていないでしょうか。民主主義の牙城ともいえるヨーロッパにおいても、ハンガリーやポーランド、チェコなどで独裁的な政権が権力を握っています。それを保守的な市民が支持しています。

 米国で起こった議事堂乱入事件に見られるような民主主義への破壊行為は、どこにおいても起こる可能性があるということです。

ドイツの連邦議会議事堂

 実際ドイツにおいても、コロナ禍の政策に反対するコロナデモにおいて、デモ隊がドイツの連邦議会議事堂に乱入しようとしました。そしてこのコロナデモ派が、トランプ・シンパであり、プーチン・シンパであるのは、本サイトで報告しました(「ドイツのコロナでもを検証する(4)」)。

 コロナ禍において民主主義を要求してデモしておきながらも、自分たち自身が民主主義を破壊しようとしていることに気づいていません。だから、民主主義の聖域である議事堂に乱入することを何とも思わないのです。

 過去を振り返っても、ヒトラーが権力を握ったのはトランプ大統領と同じく、民主主義の手続きによってでした。ヒトラーは政権を握ると、帝国議会の放火事件をきっかけに反対派を粛清、強権化していきました。

 その過去が、ドイツで戦後に民主主義を強化し、一人の権力者によって破壊されない頑丈な民主主義を構築することに力が注がれる背景になっています。

 その点が、民主主義の長い歴史を誇り、世界各国の民主主義のお手本のように思われながらも、今回のような事件を起こしてしまった米国の民主主義と違うところだと思います。民主主義は議事堂があれば、それで永遠に継続するものではありません。

 民主主義は常に強化して、弱い所を修正していかなければなりません。それは、議事堂が一旦建設されれば、それで済むわけではないのと同じだと思います。議事堂を維持していくには、メンテナンスが必要です。

 そのメンテナンスを怠ると、民主主義はいずれ崩壊する危険に直面します。今回の米国での議事堂乱入事件はそれを証明したと思います。ぼくたちは民主主義が安泰かどうか、常にアンテナを張り巡らせて監視し、弱いところを修復しなければなりません。

 そうしないと、民主主義の下においても第二のヒトラーや、第二のトランプが権力を握る危険があります。

 昨年の米国大統領選挙においては、トランプ大統領が負けました。その結果、政権が交代します。それは、米国ではまだかろうじて民主主義が機能しているからだと思います。

 でも民主主義が瀕死の状態であるのは、いうまでもありません。それをどう修復していくのか。バイデン新大統領と米国社会には、とても大きな課題が残されました。

 ぼくにはまた、今回の議事堂乱入事件に呑気な日本社会のこともたいへん気になります。ポピュリズム的であり、歴史修正主義的な今の自民党政治。それに投票を続ける有権者。日本は政権交代も、ほとんど経験していません。

 それは、日本に民主主義がないから、機能していないからといってしまえば、それまでです。コロナ禍においても、具体的にはあげませんが、日本社会において信じられないようなことが起こっています。ぼくはドイツにいて、理解できません。

 日本社会が今、どういう状態にあるのか、これからどうしていくべきなのか。一人一人が考えたいと思います。

(2021年1月08日、まさお)

関連記事:
民主主義を守る
ドイツのコロナでもを検証する(4)
権威主義に走るのはなぜ
右翼ポピュリズム台頭の構図

関連サイト:
ドイツの連邦議会議事堂(ドイツ語)
UNITED STATES CAPITOL HISTORICAL SOCIETY
LIBRARY OF CONGRESS

この記事をシェア、ブックマークする

 Leave a Comment

All input areas are required. Your e-mail address will not be made public.

Please check the contents before sending.