ワクチンは社会の共有財産
ワクチン開発から見えること
前回、ワクチン開発について日独で比較しました。そこで気づくことは、ワクチンだけではなく、技術革新政策が国の国際競争力を維持、強化していく上でとても大切だということです。
国益に直結するものであるといっていいと思います。
各国は技術革新を促進するため、たくさんの資金を投入しています。極端にいえば、教育すべてがそうだといってもいいくらいです。たとえばドイツの大学は、ほとんどが公営です。大学に付属する研究所や、その他日本でも知られているマックス・プランク研究所やフラウンホーファー研究所なども公営です。技術革新に直結する研究開発は、公共目的に公営で行われているといえます。
この状況は各国で多少の違いがあっても、それほど変わらないと思います。
こうした研究開発機関から起業して、新しい技術を持ったベンチャー企業が育ちます。それが、国の技術革新競争力を維持、強化して、国の経済を持続的に繁栄させます。技術革新というのは国家戦略で、技術革新が国家財政、つまり納税者の支払った税金で支えられていることがわかります。
でも新しい技術で、利益を得るのは誰でしょうか。新しい技術の特許権者であり、新しい技術を開発して販売する企業です。
ワクチン開発では、ベンチャー企業だけでは多量の治験ができません。ワクチンも多量に生産できません。そこに大手製薬会社が入ってワクチンを製造し、ワクチンの需要を満たします。
たとえば新型コロナのワクチンを開発した独BioNTech(バイオンテック)社と米Pfizer(ファイザー)が昨年2020年6月、最初に欧州連合(EU)にオファーしたワクチン1本の価格が54ユーロ(約7000円)だったことがつい最近判明しました。それが最終的に、昨年11月に1本15ユーロ余り(約2000円)で契約されます。
ワクチンがとても高いものであることがわかります。ワクチン1本が2000円では、人口数を考えると、アフリカなどの途上国には高すぎて手が出ません。
途上国においてもコロナワクチンを接種できるようにするため、COVAX(コバックス)ファシリティという枠組みができました。これは、豊かな国などが資金を出して、途上国にワクチンを供給できるようにするものです。
でも今、ワクチン接種がはじまっているのは豊かな先進国だけです。その先進国間においても、ワクチンの争奪合戦が起こっています。
たとえばイスラエルでは、人口の50%以上がワクチン接種を済ませたといわれます。でもイスラエルに隣接するパレスチナでは、まだワクチンをいつ接種できるかかまったくわらない状況です。
この状態では、パレスチナでウイルスが変異し、新しい異種が出てくる可能性が十分に考えられます。その場合、すでに接種したワクチンが新しい異種に効果がない可能性も考えられます。そうなると、異種に効果のあるワクチンを新たに開発して、またワクチンを接種しなければなりません。
いくら豊かな国が競い合ってワクチンを接種しても、途上国でワクチン接種が進まないと、新しい異種のウイルスが世界中に拡散することを止めることはできません。それでは、今いくら豊かな国でワクチンを接種しても、効き目がないことになります。
それを考えると、ワクチン接種は豊かな国、貧しい国、先進国、途上国の区別なく、世界中で満遍なく行われなければなりません。
そうしない限り、いつまでもウイルスが変異し、それに対して自転車操業のように新しいワクチンを開発してはワクチンを接種し直さなければならなくなります。そんなに非効率なことはありません。
ワクチンは世界中で、同時に接種しなければならないということです。
すでに述べたように、ワクチンは官民共同で開発されたものです。ワクチン開発が公的に補助されておりながら、なぜワクチンの開発者と製造者だけに莫大な利益が流れるのでしょうか。それは、おかしいと思います。
ワクチンは、世界中どこでも誰にでも接種するべきものです。それを考えると、豊かな先進国でのワクチン接種と並行して、ワクチンを途上国に無償で供給するほうがより効果的にパンデミックに対抗できます。
ワクチンは、社会全体が共有して共用します。社会共有の財産と見なすべきです。それでこそ、共同でパンデミックに戦えます。
ワクチンは貧富の差や技術の格差に関係なく、世界中で公平かつ平等に供給されなければなりません。
(2021年2月19日、まさお)
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関連サイト:
ユニセフのCOVAX(コバックス)ファシリティに関するサイト
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