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なるか緑の党ドイツ首相、首相候補はどんな人?

 ドイツでは今年2021年9月、連邦議会選挙が行われます。日本の総選挙に相当します。メルケル首相は16年間首相を務め、任期を終えて退任することがすでに決まっています。今年の選挙は、メルケル首相の後任を決める選挙といっても過言ではありません。

 選挙を前にした世論調査において今、緑の党が大躍進しています。現在(4月末の段階)、世論調査で他党を引き離し、選挙で第1党になる勢いです。その背景には、メルケル首相の与党キリスト教民主・社会同盟内の首相候補選出で熾烈な勢力争いがあるなど、ドタバタしたことがあります。ただ今回は緑の党がメインなので、それについてはこれ以上述べません。

アンナレーナ・ベアボック共同党首、© gruene.de

 緑の党の首相候補として選挙に立つのは、アンナレーナ・ベアボック共同党首(40)です。娘2人を抱える女性です。旧西ドイツ・ハーノーファー出身。政治家としては、旧東ドイツのブランデンブルク州ポツダムを地盤にしています。2018年1月から共同党首を務め、党内では現実派に属します。

 ドイツでは現在、緑の党、特に同党の首相候補となったアンナレーナさんに注目が集まっています。

 ぼくの友人が、アンナレーナさんが政治家として駆け出しだった時に、ポツダムで政策秘書のようなことをしていました。その時多少、アンナレーナさんのことを小耳に挟んだことがあります。そのアンナレーナさんがドイツの首相になる可能性があるとなると、個人的にはワクワクしています。

 ただここでは、できるだけ中立的な立場から判断するため、昨年2020年12月に行われた緑の党の党大会から、アンナレーナさんが政治的にどんな人物なのかを探ってみたいと思います。

 党大会はコロナ禍ということで、オンラインで行われました。2021年から20年間の党の基本方針を採択するものでした。総選挙のマニュフェストを決めるものではなかったことを追記しておきます。ただ選挙マニフェストでは、それが基盤になるのは間違いありません。緑の党の今後を知る上で、とても重要な党大会だったと思います。

 党大会では、総選挙後に絶対に政権に入るのだという意欲が強く感じられました。アンナレーナさんは党大会冒頭のスピーチで、「責任を負う」ということばを何回も使っていました。さらに、「2021年は、新しい決断をする新しい時代のはじまり」と、いっていたのがとても印象的でした。

 今後の課題として、「気候保護政策によって、二酸化炭素の排出を(実質)ゼロにすることが、自分たちを保護することになる」とし、「経済成長だけを追求しても、社会を割るだけ。資本主義の下で将来のことを考え、将来のために投資することが必要になる。介護によって十分な報酬を得るようにすることも重要だ」とするなど、環境政策と経済政策、社会政策のバランスをとることを強調していました。「社会にやさしい市場経済から、社会と環境にやさしい市場経済を構築する」、といういい方をしていました。

 社会福祉を強調するのは、緑の党が単に環境政党ではないことをアピールするここ数年来の傾向になっています。

 たとえば、今後石炭火力発電所が閉鎖されることを念頭に、「改革で職を失う人が出てくるが、失業者にも手厚い保護を施す政治が必要だ」と強調します。「将来の労働には社会人教育が重要で、それが社会的なセーフティネットになる」ともしました。

 ドイツは、移民(のことばの)問題や家庭内暴力の問題、さらに親の収入の差がこどもの教育に格差を生む問題を抱えています。そのため、児童保護が社会制度上重要な課題になっています。アンナレーナさんは、幼稚園や学校、特に初等教育を強化するため、「初等教育への投資を倍増させる」として、「教育が21世紀に向けた資本になる」とも表現しました。

 緑の党がメインとする環境問題では、どうだったでしょうか。

「カーボンニュートラルが社会を豊かにする。それを実現するのが、今の世代に課せられた課題だ」として、「再エネを拡大して、脱炭素を加速させる」としました。ただ、「地球温暖化問題では、パリ協定が求めるように、地球の気温が2度上昇しないようにする」、とするに止まっています。

 これに対しては、若者によるFridays for Futureをはじめ、緑の党党員の中にも、はっきりと気温の上昇を1.5度までに止めるべきだとする強い声があります。しかし党の基本方針では「2度」と規定し、「できるだけ1.5度をめざす」と追記することで妥協しました。

 この点でも、国政で政権に入ることを意識しているなと感じます。

 カーボンニュートラルに向けてアンナレーナさんは、「グリーン製鉄を実現する」とし、EUのグリーンディールを念頭に、ヨーロッパ全体において重工業をグリーン化することによって、「Made in Germanyから、Made in green Europeを目指す」と語りました。

 デジタル化問題においては、デジタル化が(グーグルやFBなどの)既存巨大企業やポピュリストに利用されるのではなく、「デジタルインフラを公平に保護し、ヨーローッパのクラウドをつくりたい」としました。金融政策でも、「ユーロをドルのように国際主要通過にまで育てるべきだ」とするなど、EUを意識した発言があちこちに見られました。

 この点も、政権加入を意識したものかと思います。
 
 外交問題では、米国大統領選挙で新政権が誕生することで変化が期待できるが、ヨーロッパは独自の外交政策を行い、「ドイツが米国の影に隠れるのではなく、責任を持つことが必要」としました。覇権を握ろうとする中国に対しては、「中国がアフリカなど発展途上国で戦略的に進出して、中国依存を強化させていることに警戒が必要だ」と警告します。

 外交問題において、緑の党がここまで発言するのはあまりなかったことです。特にアンナレーナさんのスピーチでは、これまでになくヨーロッパが意識されていたと思います。これも、国政での政権意欲を感じる点でした。

 総選挙まで、まだ5カ月近くあります。今後、政治勢力がどう変化するかわかりません。特に緑の党の場合、過去の選挙において選挙前の世論調査よりも得票率が伸びないことがよくありました。

 もし緑の党からドイツ首相が誕生するとなると、それは、ドイツの政治史において歴史的なことになります。本サイトでも、今後の状況をウォッチしていきたいと思います。緑の党党大会において決まった党の基本方針については、今後別の機会に報告します。
 
(2021年4月30日、まさお)

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関連サイト:
ドイツ緑の党本部サイト(ドイツ語)

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