緑の党のこれからの政治はこんな感じ

 ドイツでは、今年2021年9月に総選挙である連邦議会選挙が行われます。世論調査によると、緑の党(正確には、90年同盟/緑の党)は現在、政権に入るどころか第1党にもなる勢いです。

 そこで、昨年2020年11月に行われたオンライン党大会から、緑の党がどういう政治を行おうとしているのかを紹介しておきたいと思います。党大会は、2002年に決議された党の基本方針に代わり、2021年から20年間の党の基本方針を採択するものでした。総選挙のマニュフェストを決めるものではありません。その意味で、今後の緑の党の政治の方向性を見るにはとてもいいものだと思います。

 オンラインで参加した代議員は、多い時で800人余り。自宅からオンラインで参加するということで、途中席を外したり、緑の党党大会でよく見られるように、編み物をしながら参加する人もいたと思います。党大会は、初日が6時間弱、2日目が13時間、3日目も6時間と、かなりの長丁場でした。でも、途中で退場する参加者はほとんど見られず、すごいなと感じました。

 党の基本方針案の立案は、2年半前にはじまっています。2019年3月から1700回以上に渡って地方会議が開催され、たくさんの議論を経て党執行部がまとめたものです。党大会に際し、各項目毎に修正案が応募され、修正案申請委員会によって事前に党大会で決議する修正案が選択されました。修正案の中には、同委員会がいくつかを統合したり、少し内容を変更したものもありました。

 党大会においては、まず各項目毎に修正案申請委員会の修正案の選択に同意するかどうかの決議が行われます。その後に、修正案提案者による提案説明と執行部による原案の説明があり、その後に原案通りか修正案かの決議が行われました。

 その意味で、とても民主的な合議制だと感じました。それを実現するため、たいへんな労力が使われたと思います。

真ん中の黄色の建物が、ベルリンにある緑の党党本部

 党の基本方針は、以下のように構成されます。
前文
基本的な価値感
第1章:生活基盤を守る
第2章:将来に向けて経済を強化する
第3章:進歩をデザインする
第4章:共生する
第5章:民主主義を強化する
第6章:連帯性を確保する
第7章:教育に投資する
第8章:国際的に協力する

 なるほどと思ったのは、社会の多様性の必要性について、党規約に特別に入れるかどうかの決議があったことです。党規約の改正には手続きが必要なので、そのプロセスをはじめるべきかどうかの決議です。そのためには、3分の2の賛成が必要です。90%弱が賛成し、社会の多様性の必要性を党規約に入れるプロセスを開始することが採択されました。

 以下では、ぼくが緑の党の特徴を示すものだと感じるテーマについて(環境問題を除く)、党大会で決議された内容を少し具体的に見ておきたいと思います。

遺伝子組み換え:
 緑の党はもともと医学の分野は別として(ただし幹細胞と胚はアンタッチャブル)、農業における遺伝子組み換えに反対の立場です。しかし基本方針案では、新しい遺伝子組み換え技術は古い遺伝子組み換え技術と違うので、遺伝子組み換えの研究開発を認めるべきだとしています。ただしその応用には厳しい規制を設け、ヒトと環境に与える影響(便益とリスク)を判断して認めるとしています。

 これには、結構反発があるのではないかと思いました。しかし、基本方針案通りに決議されました。ただ新しい技術に対しては、特許申請を認めず、技術のオープンソース化を求めています。これは、緑の党らしいと思います。

軍事研究:
 緑の党は、平和主義を基本としています。そのため研究開発において、軍事研究を求めるべきではないとする修正案がありました。ただ原案は、核兵器の研究開発は認めないが、気候保護や戦地住民のためになる軍事研究もあるのだから、軍事研究は認めるべきだとしています。修正案は否決されました。

高等教育の無料化:
 親の収入と職業上の地位がこどもの教育に反映され、こどもの教育に格差が生まれています。そのため、教育の機会均等の原則から、大学の授業料を一律無料化しなければならないという修正案がありました。その他、無料化すべきだが、いろいろ事情もあるのだから、必ずしも無料でなければならない必要性はないという修正案もあり、原案は後者に修正されました。

 これは、原案がはっきりとした大学教育の無料化を規定していなかったからです。ただ原案がそうなっていたのは、連邦制のドイツでは、国が教育に対して規制、監督、執行権を持っていないからだと思います。ドイツでは、教育はそれぞれ州が管轄します。

選挙権:
 ドイツではすでに一部の州で、自治体と州の選挙において16歳から選挙権があります。そのため基本方針原案でも、いずれ国政選挙も16歳から投票できるようにするべきだとしていました。

 ただこれには、16歳という年齢をはっきり規定せず、今後20年間に社会がどう変化していくかわからないので、年齢を規定せず、年齢を引き下げるという記述だけにするべきだという修正案が出ました。

 決議の結果、修正案が賛成多数の支持を得ました。

国民投票:
 もう一つ重要なテーマは、国民投票です。緑の党は以前から直接民主主義を主張しています。ただ今回の基本方針原案は、自治体レベルですでに設置されている市民委員会のようなものを国政に取り入れるとしていました。

 ただそれに対し、国政にも国民投票を取り入れるべきだとの修正案がいくつも出ました。

 党執行部はそれには反対で、ハーベック共同党首が、国民投票は現在、ポピュリズムやソーシャルメディアの影響を受けやすいので、その意義はわかってはいるが、かなり危険だとの反対意見を述べています。投票では、原案通り決議されました。

安楽死:
 安楽死についても、党の基本方針に入れるべきだとの修正案が出ました。安楽死の問題ではすでに、ドイツ憲法裁判所が本人の意思を尊重することで、安楽死について立法化するよう求めています。

 この問題では、修正案申請者と党執行部が事前に、ドイツ憲法裁判所の判断を尊重するとともに、プレッシャーなく自分で自分の死について自由に判断できるようにすると記述することで合意が成立していました。

ベーシックインカム:
 ベーシックインカムについては、緑の党内で長い間に渡って議論が続いています。ただ党執行部は今回、その財政負担が大きいことから、ベーシックインカムということばを基本方針案に入れるのを避けました。

 それに対し、無条件ベーシックインカムを導入することを明記すべきだとか、ベーシックインカムということばを入れるが、必要性をチェックするなど、無条件ではなくても、ベーシックインカムということばを入れるべきだとの修正案も出ました。

 決選投票の結果、無条件とはしないが、ベーシックインカムということばを入れる案が賛成多数を得ました。

核兵器禁止:
 核兵器禁止問題では、基本計画案第8章の国際秩序の項に、以下の文章が入っています。

 ABC大量破壊兵器の軍縮と禁止のために、より厳しい規制が必要だ。それには、国連核兵器禁止条約を支援することが含まれる。この(核兵器禁止を求める)要求は、核兵器のない世界を求めること以外の何物でもない。

 基本方針案冒頭の基本的な価値観の項に、平和ということばが入っていますが、そこには核兵器ということばはありません。平和主義を貫き、核兵器廃絶を訴えてきた緑の党としては、ちょっと拍子抜けした気がします。

 党大会では、「将来への要求」というタイトルで、市民団体の代表などがゲストとしてビデオメッセージを送っていました。その中に、ドイツ・グリーンピースの理事兼事務局長のマルティン・カイザーさんから、「ドイツにある核兵器をすべて撤廃する」と「核兵器禁止条約を批准する」という記述を、基本方針に入れてほしいというビデオメッセージがありました。

 しかし前述した基本方針案の文章に対して、修正案は1つもありませんでした。そのため、原案がそのまま通過した形になっています。緑の党は政権入りしても、核兵器禁止条約の批准を求めないということだと思います。

 緑の党は現在、とても現実的な政治を主張しています。それが、中道層から支持を得て、支持層が広がっている要因だと思います。社民党が長い間、保守というよりは社会民主主義的なメルケル首相と連立して、その特徴を失ってしまいました。16年続いたメルケル政権の前には、社民党と緑の党が連立したシュレーダー政権が失業者を減らすため、リベラル的な政策で労働改革を遂行。社民党は、地盤とした労働者の支持を失ってしまいます。

 社民党は現在、緑の党よりもさらに左寄りの政策に戻ろうとしています。同時に社民党は、中道層の支持も失っていきます。

 現在、ドイツばかりでなく、世界全体が地球温暖化と気候変動の問題に直面しています。緑の党は、ドイツで石炭火力発電と石炭の採掘を止める時期を、政府が社会的コンセンサスを得て決定した2038年までではなく、2030年までに前倒しするよう求めています。Firidays for Futureの若い活動家たちも、2030年まで脱石炭を実現するよう求めています。

 しかし緑の党の現実的な気候変動対策は、若者たちには不十分に映っています。

 ドイツは今、2050年までにカーボンニュートラルを実現しようとしています。そのプロセスを実現するに向け、ドイツの政治は極右政党のドイツのための選択肢(AfD)以外、ほとんど政党が環境政党になろうとして、環境政策で競争が激しくなっています。秋の総選挙では、この環境問題が重要な争点になるのは間違いありません。その点で、環境政党元祖の緑の党が有利になるのは当然だともいえます。

 2021年9月の総選挙まで、後4カ月余り。これから、ドイツの政治勢力図がどう変化するかわかりません。特にコロナ禍が収束してくると、世論が大きく変化する可能性もあります。特に総選挙が夏休み後にあるだけに、コロナ禍から解放されて夏のバカンスを堪能した有権者が心変わりすることが十分に考えられます。

 ぼく自身は、緑の党が国政政権入りするのは間違いないと思います。焦点は、第1党になって緑の党の首相が誕生するかどうか。そうなると、ドイツの政治史において、歴史的な出来事になると思います。
 
(2021年5月14日、まさお)

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関連サイト:
ドイツ緑の党本部サイト(ドイツ語)

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